新たな戦いの始まり。山中慎介の「最終章」が幕を開ける (2ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro  photo by AFLO

 山中は、モレノとの一戦を「バンタム級の最強決戦」と断言した。モレノは、WBA世界バンタム級王座を12度防衛した実績を持ち、パンチが当たったと思った瞬間、もうそこにはいない卓越したディフェンス技術から、「亡霊」の異名を持つ。

 試合序盤から、上体の動きと右肩で攻撃をブロックするパナマから来た「L字ガード」の使い手は、まさに魔法のようなディフェンス力を披露した。攻防がハイレベルなことはわかっても、山中のパンチがなぜ空を切るのか、はた目にはわからない。ラウンド間に大型ディスプレイで流されるスロー映像を見て、まさに紙一重でモレノがパンチを意図的にかわしていることが初めて確認でき、感嘆の声が会場から上がった。

 4ラウンドまでのスコアは山中がリードしたものの、5ラウンド以降、モレノはギアを一段上げて手数を増やすと、8ラウンドを終えた時点のスコアは逆転した。

 9ラウンド、崖っぷちに立たされた山中は前に出る。ただそれは、モレノが望んだ試合展開。相手をいなすことにかけては、モレノに一日の長がある。右半身に集中したモレノのタトゥーがライトに照らされ、怪しく光る。一瞬の隙をつき、モレノの右フックが山中をとらえ、王者が一瞬棒立ちになった。

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