大坂なおみは「ママでも世界一」になれる? 偉大なセンパイたちが歩んできた「母は強し」の系譜 (3ページ目)

  • 内田 暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

【グランドスラム制覇した時のコーチと再タッグ】

 まだ産後選手の活躍が珍しかったこの当時、復帰戦でいきなりのベスト8で周囲を驚かせたのは、まだ序の口。復帰わずか3大会目の全米オープンでは、並み居る上位勢を次々に破り、キャリア2度目のグランドスラムタイトルを手にしたのだ。

 ちなみに、準決勝の対戦相手はセリーナ。そして決勝の相手は、当時19歳の新鋭キャロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)。ウォズニアッキも今夏、2度の出産を経てツアー復帰した系譜も、新時代を照らすトーチリレーを思わせる。

 大坂が「産後もグランドスラム優勝が可能」だと信じる時、その最大の根拠たる前例として挙げたいのは、やはりこのクライシュテルスだろう。26歳での復帰というのも、符号点。

 また、出産前のクライシュテルスは、勝利への執着面でライバルの後塵を拝し、あふれる才能を結果に還元しきれなかったと言われてきた。初のグランドスラム優勝も、5度目の決勝でやっと手にした悲願だ。

 それが、復帰後は無類の勝負強さを発揮し、3度の決勝進出で全勝。「母は強し」などの惹句に着地するのはあまりに安易だが、当の本人も「子どもの世話が最優先であり、その環境が試合の重圧を軽減してくれる」と断言していた。

 周知のとおり大坂は、プレッシャーや世論との折り合いに苦しみ、精神の安定を欠いたことを公言してきた選手。「誰もが知る大坂なおみ」を扱いあぐねた彼女にとって、自身以上に大切な存在を得たことは、あらゆる面でプラスに働く可能性は高いだろう。

 もちろん、ここに挙げたのは過去の成功例に過ぎず、大坂がこの先どこまで遠くに行けるかは、未知数だ。ただ、2度のグランドスラムを制した時のコーチであるウィム・フィセッテを呼び戻すなど、チーム体制にも本気度がうかがえる。

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