錦織圭が語った「ワクワク」の根源 全米OP前の会見で明かした葛藤と向上心 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Getty Images

【自分の身体に向き合っていくしかない】

 ただ、予想を上回る高次のプレーとそれに伴う高揚感が、皮肉なことに、新たなケガを誘発した。

「ジョーダン戦のあと、けっこう、ひざが痛くなって。次の試合もやるかやめるか迷ったんですけど、痛いなかでも何かやってしまって......」

 ぽつりぽつりと語る彼は、「それで、勝っちゃうので」苦く笑う。

「それが悪くなった原因でもあるんですけど......、やめればよかったなっていうのを、今となっては思います」

 心に刺さる悔いを、彼は素直にさらけ出した。

 翌週のシティ・オープンを棄権した時は、「1〜2週間で治るだろう」と思っていたという。だが、想定以上に回復に時間がかかる事実に、「昔とのギャップは、もしかしたらあるかもしれない」とも認めた。

「自分の身体に向き合っていくしかない」と諦念しながらも、「試合数をなかなか減らすわけにもいかない」と、小さな焦燥もこぼす。

 年齢とともに、自身の身体が以前と同じとはいかないことは、どこかで自覚している。休養は必要だが、砂時計の砂が落ちていくように、残された時間の限りも、徐々に可視化されているのだろう。

 そのような葛藤のなかで、今回の会見で錦織がたびたび自覚的に露わにしたのが、アスリートとしての"エゴ"だ。

「ファンに、どのようなプレーを見せたいか」と問われた時には、どうにも隠せぬ気まずさを顔いっぱいに広げて、こう打ち明けた。

「何十年もこの質問をされていて、毎回答えを捻りだすんですが、どういうプレーを見せたいかはいまだにわかっていないんです。自分らしいプレーを見せるというか、勝つために僕も試合をするんで、それが結果、お客さんに楽しんでもらえたらうれしいなっていうところが本音です」

 さらには、「ケガで離脱していた間のモチベーション」を問われた時も、彼は真っすぐに次のように応じた。

「モチベーションとしてはもう、またテニスがしたいっていうことのみで。基本的に、自分の欲のためにテニスをずっとやっているし、それを極めようと日々、やってる身なので。

 本当に、また強くなりたい、またトップの選手たちと試合をしたいっていうところだけが、常に自分の頭のなかにある」

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