大坂なおみの決勝戦はファンが待ち望んだ最高のカード。対戦相手は夕食に誘って悩みも聞いた仲良し (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

もう会えて喜ぶ立場ではない

 そのシフィオンテクに先立ち決勝の席を確保した大坂は、試合直後に涙を浮かべ、オンコートインタビューでも「ちょっと泣きそう」と声を上ずらせていた。

 2021年全豪オープン以来の決勝進出であること。マイアミ・オープンは彼女のホームトーナメントであること、そして準決勝の対戦相手が3連敗中の"天敵"ベリンダ・ベンチッチ(スイス)であること......。それら種々の要素が、彼女の心を揺さぶったようだ。

 ベンチッチとの過去の対戦では、大坂は「パニックになっていた」と振り返る。その主因は、「彼女(ベンチッチ)のプレーのことごとくが、私にとって相性が悪い」ことにあると言う。

「私の武器はサーブとリターンだが、彼女はリターンがすばらしく、すぐに攻め込んできて私を守勢に追いやる。しかも彼女のボールは速いけれど、強打ではない。だから正しい距離感をつかむのが難しく、いつも重心が後ろになってしまっていた」

 準決勝のベンチッチ戦でも、第1セットを落とした大坂は、「またいつもの展開だ」と落ち込みもしたという。その時に大坂が自分に言い聞かせたのは「今こそ自分の成長を示す時だ。過去と同じ過ちをしてはいけない。最後の一打まで全力でプレーしよう」だった。

「正直、彼女のプレーに対抗する答えが見つかったわけではない。ただ、サーブで危機を切り抜けられたのと、最後まで戦い抜いただけ」

 浮かべた涙の主成分は、過去の自分を乗り越えた幸福な達成感だった。

 大坂が言及したベンチッチ戦の勝因は、奇しくもシフィオンテクが大坂との初対戦で学んだ「トップ選手の強さの理由」だったという。

「ナオミは重要な局面でいいサーブを打っていた。強い選手とはそういうものだと知り、そして今、私もそれができていると思う」

 静かな口調に、世界2位は矜持を込めた。

「彼女の急成長に驚いている」と大坂が笑みを浮かべれば、シフィオンテクは「私はもう、セレブと会えて喜ぶ立場ではないわ」と涼しく笑う。

 多くのファンが望んだ決勝戦の好カードは、今後も長く綴られていく、新たなライバル物語の序章となる。

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