大坂なおみ、全米OP初日に大興奮。観客を楽しませたい衝動に駆られた訳

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 USオープン大会初日の、ナイトセッション----。

 それはテニスの世界において、もっとも華やかで、もっとも心が沸き立ち、ゆえに、まだ収斂(しゅうれん)されていない人々の興奮や期待感が乱反射するような、どこか落ち着きを欠いた夜だ。

 昨年は無観客だった全米オープンが、今年はワクチン接種完了を絶対条件としたうえで、フルキャパシティのファンを迎え入れ、テニスの帰還を祝福した。

試合中に笑顔も見せた大坂なおみ試合中に笑顔も見せた大坂なおみこの記事に関連する写真を見る それらファンの声援に選手も闘争心を掻き立てられたか、センターコートでは熱く長い死闘が繰り広げられる。そのため、ナイトセッションの開始は予定より遅れ、プラチナチケットを手にしたファンたちはフェンスの外で入場の瞬間を待ちながら、興奮の濃度を高めていった。

 前年優勝者の大坂なおみが足を踏み入れたアーサーアッシュスタジアムは、そんな特別な空間だった。

 ファンの声援を浴びてコートに立つ大坂は、「とてもナーバスだった」と述懐する。「ナーバス」とは多くの選手がしばしば口にする言葉だが、それがいかなる精神状態で、何を起因とするかは、人それぞれだ。

 この日の大坂にとって「ナーバス」は、「久々に多くのファンを見たことによる興奮状態に、対抗するエネルギー」だったという。

「言葉で説明するのは難しいけれど、ナーバスになったのは、いいパフォーマンスをしたいとの思いから。私がこれまで厳しいトレーニングをしてきたのは、アーサーアッシュのような大きなスタジアムで、ファンの前でいいプレーをするためだもの。ナイトセッションともなれば、なおのこと」

 自らを「エンターテイナー」と定義する大坂は、試合中に「観客を楽しませたい」との衝動に駆られることも多い。その高ぶる精神を制御すべく、自らに微妙な心のかじ取りを強いている状態が、おそらくは開幕戦での「ナーバス」だったのだろう。

 それら二律背反する心模様は、試合序盤の「受動的すぎた」というプレーに映し出される。

 趣味はチェスだという対戦相手のマリー・ボウズコバ(チェコ)は、パワーでは大坂に劣るものの、長短織り交ぜたボールをコートに広く打ち分ける戦略家だ。対する大坂は、相手のち密さに破壊のカタルシスで対抗すべく、低い軌道の強打でウイナーを奪いにかかった。

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