錦織圭、身長の低さを有利に転じた一手。GS通算99勝の経験値が生きた

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 グランドスラム通算勝ち星が区切りに到達し、その感想を問われた錦織圭が「しょぼいですね」と恥ずかしそうに笑ったのは、30勝の時だったか......。

 以降も50勝などのマイルストーンに到るたび、彼は「申し訳ないんですが、なんとも思わなくて」の言葉を繰り返してきた。第三者によって人工的な意味を付与された数字には、まるで関心がないようだった。

2年ぶりのウインブルドンを初戦突破した錦織圭2年ぶりのウインブルドンを初戦突破した錦織圭この記事に関連する写真を見る 2021年のウインブルドン。1回戦でアレクセイ・ポピリン(オーストラリア)から手にした勝利は、錦織のキャリアに"グランドスラム通算100勝"の金字塔を打ち立てる。

 そしてやはりこの時も、錦織本人は「いや、何も感じません。なんと答えれば正解なのか、わかりません」と、少しばかり、すまなそうに顔をしかめる。

「ただ......」と、なにか思い当たることがあったのか、そこから言葉をつないでいった。

「今日の試合などを見ると、経験の差が出たかなとは思います。彼はハードやクレーだったらもっといい試合ができるけれど、芝の経験がまだあまりない。芝だと動きがそこまで良くなかったりミスがあったり。いい選手ですが、芝だとまだ良さが出せていないのかなと思いました」

 今季ツアー初優勝も手にしている伸び盛りの21歳を、どこか気遣うかのような発言。それは純粋に錦織が、芝の上で打ち合い感じた彼我の戦力差であり、自身の優位性だったのだろう。

 今年のウインブルドンは、クレーから芝への適応がいかに困難であるかを、あらためて世に知らしめる試合で幕を開けた。

 全仏オープン準優勝者のステファノス・チチパス(ギリシャ)が初戦でストレート敗退。赤土の上ではあれほどに猛威を誇った勇猛な片手バックハンドが、芝ではまったくタイミングが合わない。

「クレーから芝への移行期は、この競技で最大のチャレンジだ」

 前哨戦に出ることなくウインブルドンに挑み敗北した22歳のチチパスは、呆然とそうこぼした。

 錦織にしても、2年ぶりとなる今年のウインブルドンの前に芝でこなしたのは、2試合のみである。ただ、勢いに乗る若手たちと違うのは、錦織には過去にこの"聖地"で31試合を戦ってきた経験があることだ。

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