【テニス】苦しんだ7年間。土居美咲がツアー初優勝を掴むまで (5ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki   photo by AFLO

 勝利の瞬間、彼女はラケットを放り投げることも、その場で泣き崩れることもなかった。両手を突き上げるだけの控え目な歓喜の表現は、ある意味で彼女らしいものだった。

 試合中は、常に強い光をたたえた大きな瞳に、初めて不安の色がさしたのは、表彰式のときである。ドイツ語とフランス語で進行していく華やかなセレモニーのなか、式典の主役だけが、迷子のようにどこか所在なさげだった。

 ようやく表情に明るい色が灯(とも)ったのは、英語でウイナースピーチを求められたとき。

「初めてのツアータイトルなので、ものすごく、ものすごく嬉しい。来年必ず、また戻ってきます!」

 プロ8年目の24歳にして迎えた、キャリア最高のとき――。それでもここは、終着点ではない。求め続けた答えを見つけたこの瞬間から、より遠くを目指す新たな旅が始まる。



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