【テニス】ツアー初優勝した奈良くるみが語る「元天才少女の4年間」 (3ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

 奈良のグランドスラム初出場がクレーの全仏オープンであることは冒頭で触れたが、奇しくもというべきだろうか、今年2月に優勝トロフィーを掲げた場所も、ブラジルの紺碧(こんぺき)の空に映える「赤土の上」である。スピンをかけて自分から攻められるようになったフォアハンドや、足元が滑る土の上でもバランスを崩さず長時間戦い切るフィジカルなど、彼女がこの4年で築き上げてきたものはことごとく、苦手意識を抱いていたクレーで生きた。

 奈良自身も、「コートを広く使うのがうまくなった」と、クレーでの成長を感じている。しかし、次の瞬間には、「夢みたいな感じで……本当に今は、うまく行き過ぎ」と、まるで他人事のように口にし、そんな状況が可笑しかったか、思わず自分でも噴き出した。

 そもそも今回のリオ・オープンは、2月上旬にアルゼンチンでフェドカップ(国別対抗戦)が行なわれたため、本来のスケジュールを変更して出場を決めた大会だ。時流の追い風を受け、上昇気流に乗った者には、時に「見えざる神の手」とでも呼びたくなる力が働くことがある。彼女の南米での優勝も、運命の巡りあわせなのだろう。

 その優勝から、2週間後。3月上旬にカリフォルニアで行なわれたBNPパリバオープン(グランドスラムに次ぐグレードの大会)に出た奈良は、2回戦で世界ランキング7位のシモナ・ハレプ(ルーマニア)に敗れた。自分と同じ22歳で、体格に恵まれないながらもトッププレイヤーの地位を確立したハレプとの対戦を、奈良は、「ドローを見た時から、やりたいと思っていた」という。「才能は感じず、努力でここまで来た」と言う彼女は、上位選手たちへ敬意とともに、鋭い分析の視線を向け、何かを吸収すべく常に目と頭を働かせている。敗退した後も1週間ほど会場に残り、「お手本にできる」と語るウージニー・ブシャール(世界ランキング19位/カナダ)とハレプの一戦を熱心に観戦した。今の彼女には、周囲のすべてが刺激的で、経験するあらゆることが血肉となっているようである。

「昨年の全米オープンの後は、自分に期待しすぎてしんどい時期もあったんですが、それを乗り越えたことが自信になった。何といっても今は、どんな試合にも前向きに入っていけています。このレベルの大会だと良い選手ばかりなので、誰が相手でも向かっていく気持ちになれます」

 好調を維持できている現状を、彼女はシンプルにそう分析した。

 謙虚に、前向きに、遠くを見過ぎることなく、着実に――。ここまで至ったそのままの姿勢で、奈良くるみは、躍進の「今」を送っている。

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