【テニス】全米OP直前。得意のハードコートに誓う「錦織圭の野望」 (2ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by Getty Images

 錦織が自他ともに認める大きな武器のひとつが、俊敏なフットワーク、つまりはコート上での移動速度だ。錦織を13歳のころから見ているIMGアカデミーのニック・ボロテリーも、日本から来た少年を初めて見た時、真っ先に目を引かれたのが、流麗なフットワークと爆発的なダッシュスピードだったと述懐している。そのフットワークを最も活かせるのが、グリップの効くハードコート。逆に足もとが滑りやすい芝については、「僕の持ち味であるスピードが活かしにくい」と、苦手意識を口にしていた。コートを縦横無尽に走るコートカバー能力と、機を見てネットに詰めるダイナミックな攻撃力は、ハードコートでこそ最大限に引き出されるのである。

 そしてもうひとつの錦織の武器が、美しい回転の掛かったフォアハンドのショット。本人が「バックを褒めてくれる人も多いが、僕は断然、フォア推しです」と、冗談めかして言うほどに自信を持つ、絶対的な攻撃の主柱だ。

 錦織のフォアは、単に腕力やスイングスピードに頼った強打ではない。高速かつ高質の縦回転が掛かっているため、ラケットから弾かれたボールは鋭い弧を描いて相手の手もとで沈み、ハードコートに食い込んだ後、鋭く跳ね上がる。また、高い位置のボールを飛び上がるように叩きこむのを得意とする錦織にとって、全米のハードコートは打ちやすいコートでもある。

「全米はボールも好きだし、跳ねるコートは自分に合っていると思う。ここまでの3週間はあまり良い結果が出ていないものの、先週しっかり練習し、良い調整ができているので自信を持って挑みたい」

 そう語る口調には、ここまでの調整の手応えが感じられる。前哨戦の結果は理想的とは言えず、2週間前のシンシナティ大会で初戦敗退した際は、「最近、リターンの調子が良くない」と表情に影があった。だが、開幕を控えた今は、「この1週間、練習してきて、かなり調子は上がっている。リターンやサーブも良くなっているので、不安な点はあまりない」と、目に強い光を宿していた。

 拠点を置くアメリカのハードコートで、「ベスト8以上」の高みを目指す錦織。そんな彼に、もうひとつモチベーションを与えるファクターがあるとすれば、それは、4回戦で当たる可能性の高いロジャー・フェエラーの存在かもしれない。最多となる17ものグランドスラム獲得や、最長1位在位期間などを誇るフェデラーは、言わずと知れた史上最高のテニスプレイヤー。錦織が憧れ、今年5月に初勝利を挙げた際にも、「いつまでも彼が僕の目標であることに、変わりはない」とまで断じた、永遠のアイドルである。

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