全日本卓球での東京五輪組の敗退は「波乱」ではない。男子のアラサーたち、女子の黄金世代のひとりも進化 (4ページ目)

  • 佐藤主祥●取材・文 text by Sato Kazuyoshi
  • photo by Naoki Morita/AFLO SPORT

【平野を破った世界屈指のカットマン】

 そして平野を破った佐藤は、高い守備力を誇る日本女子最強、いや、"世界ナンバーワンのカットマン"として君臨し続けている実力者だ。かつて2度、中国の絶対女王でリオ五輪金メダリストの丁寧(テイネイ)を破ったこともある。

 佐藤は北海道の名門・札幌大谷高校出身で、2013年からは国際大会出場に重きを置き、ワールドツアーを転戦。特に女子ダブルスでの実績を多く持っており、同じくミキハウスに所属している橋本帆乃香との"カットマンペア"では、2016年にワールドツアーの3つの大会で優勝を飾っている。

 世界ランクは、2017年に自身最高の9位まで上昇。ここ数年は常に日本人選手5番手以内をキープするほど安定感は抜群だ。石川、伊藤、平野にはない希少なスタイルで、長年、日本代表の脇を固めてきた。

 プレースタイルは後陣での幅広い守備と、時折、相手の隙をついて打ち込む鋭いドライブが特徴で、緩急を織り交ぜた粘り強いプレーはどんな屈強な選手をもうならせる。

 ちなみに、その驚異的な粘りによる"世界記録"も保持している。前述の加藤と、2020年のオマーン・オープンのシングルス決勝で、試合時間1時間38分という世界最長試合記録を樹立。加えて、2017年のカタール・オープンのリー・ジェイ(オランダ)との試合でも、1ラリーで766回打ち合い、10分13秒続いたというギネス級の記録も持っており、いかに佐藤が粘り強く返球し続けているかがわかる。

 そして今回の全日本選手権でも、"佐藤らしさ"が随所に表れていた。

 平野との試合では、序盤から長短と緩急をつけたカットで揺さぶり2ゲームを連取。3ゲーム目のカウント9ー8の場面では、平野のフォア、バック、ミドルに打ち分けるドライブをことごとくカットで拾い上げ、渾身のスマッシュを何度もロビングで返し、最後は力んだ平野のミスを誘発。そのまま3ゲーム目も奪取した。まさに佐藤の真骨頂。どんな場面でも粘り勝つ、世界最高峰の守備力だ。

 4ゲーム目は平野に奪われ、流れが傾きつつあったが、5ゲーム目に再び輝きを取り戻し、しっかりと勝ち切った。これで8年連続のベスト8入り。準々決勝では同大会のジュニア女子シングルス覇者の木原美悠にフルゲームの末に敗れたが、凄まじいラリーを連発するなど1時間を超える大激戦となった。

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