鳥内秀晃が日本スポーツ界の病理を斬る。「鉄拳制裁、パワハラ、そんなのスポーツやない」

  • 中村計●取材・文 text by Nakamura Kei
  • photo by Sankei Visual

 大学日本一を決める甲子園ボウルで通算12度の優勝に導いた、関西学院大学アメリカンフットボール部「ファイターズ」の前監督・鳥内秀晃氏。パワハラや体罰、根性論など、教育現場の課題が浮き彫りになる今、指導者が目指すべき方向とは? そのヒントを探るべく、28年間の監督人生で築き上げてきた鳥内氏の指導論に迫った。

関西学院大学アメフト部前監督・鳥内秀晃氏関西学院大学アメフト部前監督・鳥内秀晃氏

【「自主性がある組織=楽で自由」の誤解】

―― 関西学院大学ファイターズの監督を辞める時、会見(2020年1月8日)で、鳥内さんは自分の指導スタンスを「勝手にやってくれ作戦」と表現されていました。見事な言葉のセンスだと思いました。「勝手にやってくれ」だけでは投げ出しているのと同じですが、「作戦」と後ろに付けることで、指導者の目が行き届く範囲内で、選手が自由にプレーしているんだなということが伝わってきました。だから、関学は強かったのだな、と。

鳥内秀晃(以下:鳥内) 選手も指示されて動くのではおもしろくないでしょう。せやから、指導者の力量は、いかに選手が自らやるように仕向けられるか。やらされんのと、自らやるんでは、成長の度合いも、スピードも、雲泥の差がある。私は定期的に個人面談をみっちり行ない、それぞれ、どうなりたいんかを明確にイメージさせた。面談は録音させて、文字に書き起こす。それを部員間でも共有しているので、選手同士も、互いの目標を知っている。自主性というと楽そうな印象を持たれるかもしれませんけど、うちは厳しいですよ。

 私にとって最後のシーズンとなった2019-20年は、甲子園ボウルの直前、4年生たちによって3人の部員が辞めさせられました。全然目標達成のためにやってへんやんか、と。酷やなと思いましたけど、事実なのでかばいようがなかった。勝負の世界は、楽していては勝てませんから。

―― 自主性に任せるという方法論は、徹頭徹尾、自分次第。実は、これ以上ないほどに容赦ないやり方でもあるんですよね。

鳥内 うち(関学大)では、口だけの人間はすぐに淘汰されちゃいますよ。それに、指導者が前に出すぎると、僕らが見ていないところで何をするかわからない。選手の中で自発性が育ってくると、僕がいようがいまいが関係ない。そこが理想です。あと、アマチュア選手は未熟なぶん、上から命令されると、そのまんま妄信してしまうことがあるやないですか。でも僕らも間違えることくらい、ありますから。「監督、それ、おかしいんとちゃいますか」と言えるくらいの選手でおってほしいんです。

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