F1日本GPの行方を中野信治が占う......フェルスタッペンの「異次元の走り」を止められるチームはあるか (3ページ目)

  • 川原田 剛●取材・文 text by Kawarada Tsuyoshi

【レッドブルVSフェラーリに注目】

 とはいえ、今のフェルスタッペンを倒すのは相当難しい。同じドライバーとして、あり得ないレベルの走りをしていると感じています。フェルスタッペンの原動力になっているのは、一番になりたいという強い気持ちだと僕は見ています。

 フェルスタッペンは、新しいマシンレギュレーションが導入された2022年シーズンが始まったときは、新しいマシンにうまく対応できていませんでした。昨シーズンも前半戦はチームメイトのセルジオ・ペレスに負けていたところがありました。

 それまでのレッドブルのマシンはレーキ角(マシンの前傾角度)がついており、リアはピーキーですが、常にフロントに荷重を乗せたまま走るという、オーバステア特性を持っていました。

 そういうマシンがフェルスタッペンはもともと得意だったんです。でも今のレッドブルのマシンはまったく特性が異なります。挙動はマイルドで、どちらかといえばアンダーステア傾向のマシンになっています。

 新しいレギュレーションのもとで開発されたマシンは自分好みではなく、チームメイトに先行を許す場面がありましたが、フェルスタッペンはそれをマシンのせいにするのではなく、自分のドライビングスタイルを変えてアジャストしていきました。それが今の強さにつながっています。なぜ自分のスタイルを捨ててまで変化することができたかといえば、一番の理由は負けず嫌いということだと思います。

 F1ドライバーは全員が負けず嫌いです。自分は誰にも負けないという気持ちが本当に強い。一方でプライドも高いので、フェルスタッペンも最初は自分のドライビングスタイルを貫いていけば負けないはずだという気持ちもあったと思います。でも、結果的に勝つことができなかった。その時に感じた悔しさが、自分のドライビングスタイルを変えないと勝てないという気持ちに結びついていったと、僕は見ています。

 自分を変え、マシンに合わせ込むという進化が、今のフェルスタッペンの強さ。もし変わることができなかったら、今のレッドブルのマシンだと、フェラーリに負けていた可能性があります。

 かつてハミルトンもチームメイトのニコ・ロズベルグにチャンピオン争いで敗れ、それがきっかけで彼の言動や行動などが変わっていきました。メンタルを鍛え、周りを味方につけることで、ハミルトンはさらに強くなり、7度のタイトルを獲得するドライバーに成長しました。同じようにフェルスタッペンも壁にぶち当たり、自分を大きく進化させてきたのです。

 今シーズン、レッドブルとフェラーリの間にはマシン性能にそれほど大きな差はないと僕は思っています。それはペレスの走りを見れば明らかです。でもフェルスタッペンは開幕からの2戦ではタイヤをうまく使い、マシンの性能を限界まで引き出して圧勝しています。

 今のフェルスタッペンはひと言でいえば異次元です。誰も真似できないレベルのドライビングをしています。日本GPではフェルスタッペンの異次元な走りにぜひ注目してほしいですね。

前編<中野信治が今季F1の勢力図を詳細解説 「レッドブルで何が一番進化しているかと言えば......」>を読む

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【プロフィール】
中野信治 なかの・しんじ 
1971年、大阪府生まれ。F1、アメリカのカートおよびインディカー、ルマン24時間レースなどの国際舞台で長く活躍。現在は豊富な経験を活かし、ホンダ・レーシングスクール鈴鹿の副校長として、F1参戦を目指す岩佐歩夢をはじめ、国内外で活躍する若手ドライバーの育成を行なう。また、DAZN(ダゾーン)のF1中継や毎週水曜のF1番組『WEDNESDAY F1 TIME』の解説を担当。

プロフィール

  • 川原田 剛

    川原田 剛 (かわらだ・つよし)

    1991年からF1専門誌で編集者として働き始め、その後フリーランスのライターとして独立。一般誌やスポーツ専門誌にモータースポーツの記事を執筆。現在は『週刊プレイボーイ』で連載「堂本光一 コンマ1秒の恍惚」を担当。スポーツ総合雑誌『webスポルティーバ』をはじめ、さまざまな媒体でスポーツやエンターテイメントの世界で活躍する人物のインタビュー記事を手がけている。

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