中野信治が今季F1の勢力図を詳細解説 「レッドブルで何が一番進化しているかと言えば......」 (4ページ目)

  • 川原田 剛●取材・文 text by Kawarada Tsuyoshi

【フェルスタッペンは誰もマネできない】

第1戦、第2戦を勝利したマックス・フェルスタッペン photo by Sakurai Atsuo第1戦、第2戦を勝利したマックス・フェルスタッペン photo by Sakurai Atsuo

 王者レッドブルの強みは、タイヤのデグラデーションが少なく、とくにリアタイヤの持ちがいいことです。開幕戦のバーレーンGPのようなタイヤに厳しいサーキットではレッドブルの強さが際立ちます。逆にリアが厳しいフェラーリのようなクルマだと、厳しくなります。

 グラウンド・エフェクト・カーはどちらかといえば、アンダーステア傾向の曲がりづらいマシンになります。そこで、どのチームも回頭性(※車体の向きを変える速さやコントロール性)を上げるためにリアのダウンフォースをどんどん軽くしていった結果、多くのチームのマシンはリアがナーバスになっていきました。

 そんななかでうまくクルマをつくれているのがレッドブルです。レッドブルは、クルマの前後が上下動するピッチングのコントロールにフォーカスしてクルマをつくっている印象です。上下動の動きが小さいので、ブレーキングや加速時に荷重移動をさせづらく、タイヤにも熱が入れにくいという欠点があります。

 だから、昨シーズンでもタイヤに熱を入れるのに時間がかかりましたが、逆に挙動はマイルドでタイヤにすごくやさしい。デグラデーションが少なく、レースでの強さになっています。

 ピッチングをうまくコントロールできると、マシン下面に安定して大量の空気を通すことができますので、どういう路面状況でも安定してダウンフォースを稼ぐことができます。

 その一方で、レッドブルのマシンは荷重がかかりにくいので、ドライバーのグリップ感は薄いと思います。だから予選で一発のタイムを出すのは難しいはずなのですが、フェルスタッペンはうまくマシンを走らせて、開幕から3戦連続でポールポジションを獲得しています。

 フェラーリも前年に比べると確実に速くなっています。レースでのタイヤのデグラデーションは悪くないですし、一発の速さもあります。データを見えると、リアはピーキーな動きをしていますが、フロントはしっかりと入っています。回頭性はすごくいい。

 対してレッドブルは舵角が大きく、ステアリングをたくさん切らないと曲がっていませんので、フェルスタッペン本来の走りはできていないと思います。フェルスタッペンはフロントがしっかりと入ってよく曲がるオーバーステア傾向のクルマを得意としています。

 今のレッドブルは真逆なのですが、それでも何とか予選では一発のタイムを引き出しています。おそらくフェルスタッペン本来のドライビングスタイルに合うのは、今のフェラーリです。フェルスタッペンは、フェラーリに乗ったらかなり速いと思います。

 それでもフェルスタッペンが強さを発揮できるのは、タイヤの使い方が優れているから。タイヤに関してはもうマスター(達人)のレベルです。今のフェルスタッペンの走りは誰にもマネできないです。今年のレッドブルで何が一番進化しているかと言えば、マシンよりもフェルスタッペンではないのか。そう感じさせるほど、開幕2戦の走りは異次元でした。

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後編<F1日本GPの行方を中野信治が占う......フェルスタッペンの「異次元の走り」を止められるチームはあるか>を読む

【プロフィール】
中野信治 なかの・しんじ 
1971年、大阪府生まれ。F1、アメリカのカートおよびインディカー、ルマン24時間レースなどの国際舞台で長く活躍。現在は豊富な経験を活かし、ホンダ・レーシングスクール鈴鹿の副校長として、F1参戦を目指す岩佐歩夢をはじめ、国内外で活躍する若手ドライバーの育成を行なう。また、DAZN(ダゾーン)のF1中継や毎週水曜のF1番組『WEDNESDAY F1 TIME』の解説を担当。

プロフィール

  • 川原田 剛

    川原田 剛 (かわらだ・つよし)

    1991年からF1専門誌で編集者として働き始め、その後フリーランスのライターとして独立。一般誌やスポーツ専門誌にモータースポーツの記事を執筆。現在は『週刊プレイボーイ』で連載「堂本光一 コンマ1秒の恍惚」を担当。スポーツ総合雑誌『webスポルティーバ』をはじめ、さまざまな媒体でスポーツやエンターテイメントの世界で活躍する人物のインタビュー記事を手がけている。

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