F1は「忖度なし、容赦なし、配慮なし」 元ホンダ技術者・浅木泰昭が語る今季展望 (2ページ目)

  • 川原田 剛●取材・文 text by Kawarada Tsuyoshi
  • 樋口 涼●撮影 photo by Ryo Higuchi

【ホンダでも起こった経営問題】

ーーメルセデスがマシン開発に失敗したら、レッドブルが今シーズンも独走してしまう?

 昨シーズンの再現はあるかもしれませんが、そうなったら一大事です。メルセデス内部で揉めごとが発生するかもしれません。大体、大きな企業が所有するチームは、2、3年くらいは結果が出なくても我慢できますが、5年も勝てないと経営問題になってきます。

 ホンダの場合、2015年にマクラーレンと組んで第4期活動をスタートさせましたが、最初の3シーズンは完走することもままならない状況が続き、社内では「こんなにお金を使ってブランドイメージを落としてどうするんだ」と問題になってきました。メルセデスは過去2シーズンで1勝はしていますが、今年も結果が出ないと、問題が徐々に噴出してくると思います。

 レッドブルの創業者のディートリヒ・マテシッツさんやアストンマーティンのローレンス・ストロールさん、もっと言えば本田宗一郎さんのような強力なリーダーが、「F1活動は企業のため必要だ」と言いきれば問題はないんです。周囲がリーダーのF1への情熱を感じとって、反対することがありません。でも、創業家のあとを受け継いだリーダーや経営者はそうはいきません。

 F1のような膨大なお金を使っているプロジェクトは結果が伴っていないと、自動車メーカーが活動を続けていくのは相当苦しいです。負け続けていると、「こんな人間がリーダーだと会社が潰れてしまう」と株主や投資家、社内の反対派などが口を挟んできたりして、外乱がいろいろと起こります。それは世の常ですし、歴史が証明していますよね。F1が始まった1950年から参戦し続けている自動車メーカーは、フェラーリしか存在していませんから。

ーー今年はPUの開発は基本的に凍結されていますが、各メーカーの力関係はどのように見ていますか?

 ホンダ、メルセデス、フェラーリに関してはほぼ差はないと言っていいと思います。アルピーヌが少し落ちていると言われていますが、ホンダがマクラーレンと組んでF1に参戦した時のメルセデスとのパワー差に比べれば、たいしたことないと思いますよ(笑)。

 第4期のマクラーレン・ホンダ時代だけでなく、レッドブルと組んだ初年度や2年目(2019〜2020年)でもメルセデスとのパワー差はけっこうありました。それと比べると、今のアルピーヌとライバルとのパワー差は非常に小さいと思います。

 でもルノーは昨シーズン、PUの競争力が劣っているとして救済措置の適用を求めていました。他のPUメーカーの代表者は反対していましたが、私も賛同しません。F1らしくなくなってしまいます。

 F1は「忖度なし、容赦なし、配慮なし」です。レースをおもしろくするために、BOP(バランス・オブ・パフォーマンス)と呼ばれるマシンの性能調整を行ない、勝ったり負けたりの接戦を演出するということはいっさいありません。私は、BOPを採用するレースを否定しているわけではありませんが、強いチームが勝ち続け、弱いチームが負け続けるのがF1という競技です。そういう究極のレースだからこそ、技術者の競争やブレイクスルーが生まれ、人材も育つと考えています。

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