佐々木歩夢が加藤大治郎らレジェンドの走った道を継いでいく Moto3最終戦優勝後に両親と抱擁 (3ページ目)

  • 西村 章●取材・文 text by Akira Nishimura

 チェッカーフラッグを受けた後、佐々木は7年間で初めて泣いた。

「先週のレースは辛かったし、今日が最後のMoto3レースということで自分にプレッシャーも与えていたから、それがチェッカーの瞬間にとけて、ちょっと涙が出ました。初優勝(2022年)でも泣かなかったので、これがホントに初めての涙です」

 ウィニングラップで、佐々木はコースサイドに出てきた両親と抱擁を交わした。佐々木と両親はルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得した2017年にも、ここバレンシアサーキットで記念Tシャツを着てともに祝福した。2023年の彼らがうかべた笑みは、そのとき以上に大きなものに見えた。佐々木の父、慎也氏は元ライダーで、1993年のアメリカGPではMoto3の前身となる125ccクラスに参戦して13位でゴールした経験を持つ。息子が直面してきた苦労を誰よりも理解できるだけに、よろこびもひとしおだろう。

 2024年の佐々木は、Moto2クラスへステップアップする。

Moto2にステップアップして戦うこと自体が、絶対に簡単なことじゃないはずなんです。だけど、低い順位でスタートするのではなく、できればポイント争いやトップテンが見えるようないい形でMoto2に上がりたい。ルーキーだから、という言い訳はしたくないんです。だから、この冬の間は大きいバイクに慣れるために、日本に帰るヒマがないくらい1000cc600ccのバイクでたくさん走り込む予定です」

 Moto2クラスには、少年時代からともに切磋琢磨してきた小椋藍が参戦している。小椋もまた、2024年は長年過ごしたIDEMITSU Honda Team Asiaを離れて新たなチームへ移籍するため、心機一転のシーズンとなる。

「歩夢はMoto3でチャンピオン争いをしていたライダーなので、Moto2でもきっとすぐに速くなると思います。Moto2の経験が長いこちらからしたら負けてはいけない存在になるわけだし、自分にとってもすごくいい刺激になると思います」

 性格は異なるがともに将来を嘱望される小椋と佐々木がMoto2の上位陣で鎬を削れば、かつて加藤大治郎や中野真矢、宇川徹たちが毎戦トップ争いを繰り広げていた時代のように、日本人選手が表彰台を席捲する日もやがて現実味を帯びてくるだろう。

プロフィール

  • 西村章

    西村章 (にしむらあきら)

    1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)などがある。

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