F1角田裕毅とF2岩佐歩夢の変化に中野信治が驚き「人間はここまで変わるんだな」 (3ページ目)

  • 川原田 剛●取材・文 text by Kawarada Tsuyoshi

【注目の岩佐歩夢には言うことがない】

 F1直下のFIA-F2でも日本人ドライバーの岩佐歩夢選手がチャンピオンをめざして戦っています。彼は前半戦で3勝を挙げ、ランキング3位。F2参戦2年目で、ここまで本当にいい仕事をしていると思います。

F1参戦をめざし現在F2で戦う岩佐歩夢 撮影/桜井淳雄F1参戦をめざし現在F2で戦う岩佐歩夢 撮影/桜井淳雄この記事に関連する写真を見る 岩佐選手と角田選手とはまったくタイプの異なるドライバーです。角田選手はナチュラルな速さがあり、事前に入念な準備をしてからものごとに対処するというタイプではありません。まずはトライしてみて、その状況に合わせて対応していくドライバーです。それが強さでもあります。

 一方、岩佐選手は自分自身のウィークポイントをよく知っているんです。それを理解したうえで、じゃあ何をやったら克服できるのかと考え、対応していくタイプ。自分の弱点をつぶすために、いいクルマをつくる、タイヤを理解する、チームを味方につける......そういったことを徹底して実践していく。そこが岩佐選手のすごいところです。

 僕は夏休み前の最後のレースとなった第14戦ベルギーGPの会場に行ったんですが、サポートレースとしてF2が開催されており、久しぶりに岩佐選手に会いました。彼が「ホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿(HRS-Suzuka)」の生徒だった頃から知っていますが、表情がすごく変わっていて、正直びっくりしました。本当に戦う男の顔になっていて、やっぱりチャンピオンを争うまでになると、人間はここまで変わるんだなと思いました。

 今、岩佐選手はF2でチャンピオンになる目標を達成するためにどうすればいいかと考え、すべての時間を使って目標に向かって行動しています。彼は「ここまでやっているんだから負けるわけがない」というメンタルをつくり上げているんです。それがドライビングやレースの組み立てにもあらわれています。

 こういうアプローチは実践しようとしてもなかなかできることではありません。だから、僕は彼に対してあまり言うことはありません。むしろ、このまま変わってほしくない。今の感覚を忘れずに戦い続けることができれば、彼は伸びていくと思っています。

 F2のレースは残り3大会(6レース)です。岩佐選手にはコンスタントにポイントをとり、強いレースを見せてほしい。もちろんチャンピオンをとってほしいですが、最低でもランキング2位になることを期待しています。そこまでやれたら、彼の未来は開かれていくと思います。(つづく)

後編<F1レッドブルの連勝を止めるのはハミルトンかルクレールか「化ける可能性がある」若手か? >を読む

前編<中野信治に聞くなぜフェルスタッペンはここまで強いのか?レッドブルのマシン特性から考察>を読む


【プロフィール】
中野信治 なかの・しんじ 
1971年、大阪府生まれ。F1、アメリカのカートおよびインディカー、ルマン24時間レースなどの国際舞台で長く活躍。現在は豊富な経験を活かし、ホンダ・レーシングスクール鈴鹿(前・鈴鹿サーキットレーシングスクール)副校長として、現在F2選手権に参戦する岩佐歩夢をはじめ国内外で活躍する若手ドライバーの育成を行なう。また、DAZN(ダゾーン)のF1中継や毎週水曜日のF1番組『WEDNESDAY F1 TIME』の解説を担当。

プロフィール

  • 川原田 剛

    川原田 剛 (かわらだ・つよし)

    1991年からF1専門誌で編集者として働き始め、その後フリーランスのライターとして独立。一般誌やスポーツ専門誌にモータースポーツの記事を執筆。現在は『週刊プレイボーイ』で連載「堂本光一 コンマ1秒の恍惚」を担当。スポーツ総合雑誌『webスポルティーバ』をはじめ、さまざまな媒体でスポーツやエンターテイメントの世界で活躍する人物のインタビュー記事を手がけている。

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