「本当に助けてくれるのは変な人」...ホンダの世界一のF1パワーユニットはいかにして生まれたか? (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • photo by BOOZY

【やれる確証なんてなかった】

 すでに途中まで開発が進んでいたとはいえ、新型コロナの影響で開発が凍結されていた新骨格パワーユニットを、残り2カ月で完成まで漕ぎ着ける──。内燃機関の開発スパンからすれば、あり得ないくらいの無謀な挑戦だった。

 しかし、ホンダの技術者たちは「やります」と答え、実際にそれを成し遂げた。当時開発のプロジェクトリーダーで、今年から現場オペレーションの総責任者となった折原伸太郎エンジニアは当時をこう振り返る。

「もともとは『もうやらない』ということになっていたのが、急に呼び出されて『行けるのか?』と言われたので、『行けますよ』と答えました。やれる確証なんてありませんでしたけど、もう撤退すると言われたら、やりたいですよね(笑)。相当タイトな目標でした。ただ、それを決断してチャンピオンを獲れたわけですから、浅木さんが流れを変えてくれたんだと思います」

 2021年にドライバーズタイトルを獲り、2022年には22戦17勝という圧倒的な強さでダブルタイトルを獲得。性能でも、信頼性でも、ホンダの技術者たちが作り上げたパワーユニットが世界一になった。

「あれは本当に奇跡ですよ。火事場の馬鹿力じゃないけど、ホンダの技術者の目の色が変わるとこういうこともできるんだ、という感じでした。あの時のパワーは、本当にいいものを見せてもらいました。こんな苦しい状況下でもやれる、世界一になれるという成功体験をした技術者は、レース以外のどこに行っても活躍できると私は信じています」(浅木)

 第4期序盤の苦境のなか、誰もが「やれるかぎりのことをやれ」と言われて浮き足立ち、実力が出せなくなっている状況を見抜いた浅木は、「これとこれをやる。これは要らない」と開発アイテムの取捨選択の決断を驚くほどのスピードで下していったという。

 折原エンジニアは「その決断の速さや絞り込みを見て、F1のリーダーというのはこういう人なんだろうな、そのくらい別格なんだ、ということを開発の立場からは感じました」と当時を振り返る。

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