「F1ドライバーってすごいな」「2022年を象徴するスピンオフ」。現役ドライバー松下信治の目に映ったF1新時代 (4ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • photo by BOOZY

【珍しかったルクレールのミス】

 そんな松下が2022年で最も印象に残った場面は、第12戦フランスGPでルクレールがスピンオフを喫し、タイヤバリアから脱出できず「ノー!」と絶叫したシーンだという。

 開幕時点では最速のマシンを誇り、タイトル争いの最有力候補であったはずのフェラーリとルクレールが、どうして2022年のタイトル争いから脱落し、ここまで圧倒的な差をレッドブルにつけられたのか──。フランスGPはルクレールの単純なミスだけでなく、それを如実に物語っている2022年シーズンを象徴する場面だったのだと松下は言う。

「ルクレールがミスをしたこと自体が珍しいというのもありますけど、あれはチームが劣っているぶん、ドライバーにかかる負担やプレッシャーが大きくて、それが出てしまった瞬間だったなと感じました。

 ルクレールが常に100%とか101%で走らなきゃならなかったのに対し、マックスは余裕を持って走れているから、ミスも少ない。クラッシュした時に叫んでいましたけど、ルクレールはレッドブルとマックスに対抗するために、常にいっぱいいっぱいで走っていたわけです。

 チームがもっとドライバーをサポートしてくれれば、ドライバーとしては余裕を持って走れるけど、常にいっぱいいっぱいで走っていると、ちょっとしたことで崩れてしまう。だから、あれは一見単純なドライバーのミスに見えるけど、実際にミスではあるんだけど、結局のところは『チーム力の差なんだ』とドライバーとしては感じました。

 その後に(レッドブルとフェラーリの)差ははっきり見えたわけですけど(苦笑)、でもああいうのってドライバー本人はわからないもので......。気づかないうちにオーバードライブしていて、気づいたときにはああなっているということなんです。これが見えない差なんだなって思いましたね」

◆松下信治・中編に続く>>「ルクレールには負荷がかかりすぎている」


【profile】
松下信治(まつした・のぶはる)
1993年10月13日生まれ、埼玉県さいたま市出身。4歳の時にF1日本GPを観戦して「F1レーサーになる」夢を持つ。幼少期からカートで腕を磨き、2011年に鈴鹿サーキットレーシングスクールに入校して首席で卒業。2014年に全日本F3で王者となって2015年からGP2シリーズを主戦場とする。2016年・2017年はマクラーレン・ホンダのテストドライバーを経験。2020年途中から日本に戻り、昨季はスーパーフォーミュラ初優勝を飾った。

【筆者プロフィール】米家峰起(よねや・みねおき)
F1解説者。 1981年1月31日生まれ、兵庫県出身。F1雑誌の編集者からフリーランスとなり2009年にF1全戦取材を開始、F1取材歴14年。各種媒体に執筆、フジテレビNEXTやYouTube『F1LIFE channel』での解説を務める。

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