7年6回王座獲得。MotoGPホンダのエース、マルケスの強さの根源 (4ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

「リアが滑り出すとラップタイムが落ちていきますけれども、フロントの場合は、バイクが横を向こうが、フロントが切れこもうが、対応してしまうんです。しかし、集中力が欠けるとどうしても反応がわずかに遅れてしまう。ちょっとした気の緩みが、レース中に出てしまうんですね。今のマルクの最大の課題は、そこですね」

 この時に中本の指摘していた「集中力の緩み」が、15年シーズンにタイトルを逃す一因になったともいえるだろう。その反省を教訓として、16年以降のマルケスはさらに強さを増していった。

 マルケスの驚異的な身体能力については、レース現場でホンダ陣営を束ねる現HRCディレクターの田(くわた)哲宏もこんな表現で説明したことがある。

「ぼくらにとっての1秒が、例えばこれくらい(と両手で15センチくらいの幅を示す)だとするじゃないですか。でも、マルクにとっての1秒って、これくらいの長さ(と両手を肩幅以上に広げる)の体感時間なのかもしれない。だから、その時間の幅の中できっと、彼はいろんなことをできてしまうんじゃないかと思うんですよ」

 ただ、当のマルケスに「なぜそういうことをできるのか」と訊ねても、「できてしまうから」という言葉以外にあまり意味のある回答は返ってこないのではないかという気がする。それは、100メートルを9秒台で走る超人的な陸上選手に対して「なぜ9秒台で走れるのか」と、10数秒でしか走れない一般人が訊ねたところで、理解可能な説明が返ってこないのとおそらく同じことだ。しかし、100mを9秒台で走る技術論としての言葉なら、我々一般人にも理解は可能だろう。

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