【競馬】小牧場を劇的に変えたダービー制覇の余波 (2ページ目)

  • 河合力●文 text&photo by Kawai Chikara

 ささやかな気持ちから、8時に開店するショッピングセンターにクロワッサンを買いに出掛けたスウィーニィ氏。そこで彼は、ダービーの勝利をもう一度、それも最大限に味わうこととなる。

「実はそのショッピングセンターには、馴染みの床屋さんがあるんです。店主はとても競馬好きで、パカパカファームの馬についても、いつも応援してくれていました。それで、クロワッサンを買うついでに、その床屋さんにも顔を出しておこうと思ったんです。すると、すでにお店の外にある掲示板に、ディープブリランテが一面を飾っている新聞がドーンと飾ってあったんですよ。それも、『パカパカファームの生産馬です!』と大きな見出しまで書いて、新聞に添えてくれていました。まだ、朝の8時をちょっと過ぎたばかりですよ。それを見たときに、本当にうれしくて、感動しました。同時に、ダービーを勝ったことを、すごく誇りに思いましたね」

 牧場スタッフや関係者だけでなく、地元の人も朝早くからその勝利を祝福してくれていた。スウィーニィ氏はこの朝の出来事こそ、もっとも印象深く「忘れられない瞬間」と振り返った。

 ディープブリランテの勝利が与えた喜びはこれだけではない。あるスタッフは、「ダービー以来、自分の子どもがすっかり牧場の馬のファンになってしまった」と笑う。

「それまでは、土日に仕事で家を留守にすると、子どもが『なんで休みなのに仕事なの?』と言ってすねていたんですよ。でも、ブリランテがダービーを勝ってからは、むしろ子どもが私の仕事を理解するようになって(笑)。ブリランテはまさに子どものヒーローになっていましたね。以来、牧場の馬がレースに出ると、真剣に応援してくれています」

 さらに、ダービーを勝ったことで、パカパカファームには国内外のメディアから取材が殺到した。スウィーニィ氏が、当時の喧騒を笑顔で振り返る。

「いろいろな人から、『ダービーを勝ったときはどんな気持ちだった?』と聞かれました。そして、その度に『もちろんうれしかった』と答えましたよ。うれしくないわけないですから(笑)」

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