【競馬】素質に惚れた生産者が初めて別れを惜しんだ「若駒」 (2ページ目)

  • 河合力●文 text&photo by Kawai Chikara

 パカパカファームのフォーリングマネージャー(生産担当)である伊藤貴弘氏も、ディープブリランテの成長には目を見張るものがあったという。

「セリが終わってから翌年の4月までは、とにかく成長が早かったことを覚えています。普通、5月生まれの馬は、1年経ってもまだ、同世代の早生まれの馬に比べて馬体で見劣るものです。ところが、ディープブリランテは翌春を迎える段階で、早生まれの馬と変わらないほど、立派な馬体になっていました」

 一方で、ディープブリランテの性格について、伊藤氏はこんな見方をしていた。

「競走馬としては『ちょっとおとなしいかもしれないな』と思っていました。なにしろ、一歳上の姉ハブルバブル(父ディープインパクト)は非常に気が強くて、僕も一度蹴られたことがあったんです。でも、ディープブリランテは姉とはまったく逆で、一切手がかからなかったんですね。競走馬というのは、ある程度気が強くないと厳しいレースを戦っていけないと思うんです。そういう意味でも、(ディープブリランテの)性格的なおとなしさは、少しだけに気になっていました」

 そのため、伊藤氏はディープブリランテの管理において、「飼い葉(馬の飼料)をきちんと食べているか、そこには注意していた」という。

「飼い葉の入った桶は頭数分きちんと用意するのですが、いざ飼い葉を食べるときは、ひとつの桶に複数の馬が群がることがあります。そんなとき、ディープブリランテは飼い葉を食べるのが他の馬より少し遅かったんですね。他の馬に、前に入られてしまうというか。おとなしい性格が、そういうところにも出ていたのかもしれません。それで、ディープブリランテがきちんと飼い葉を食べているか、用心深くチェックしていた覚えがあります」

 余談ではあるが、そうした印象があるからこそ、パカパカファームのスタッフたちは、ディープブリランテがレースで走る姿を見たとき、驚きを隠せなかったという。騎手が押さえきれないほど、引っかかることが多かったからだ。スウィーニィ氏は「あれは気性が悪いのではなく、ディープブリランテの性格が前向きで、真面目過ぎたからだと思います」と解釈していたが、クラシック戦線に向かうにあたって、それはひとつの課題に挙げられていた――その辺の詳しい話は、今後お伝えしていきたい。

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