【競馬】ディープブリランテは、生後わずか15分で起き上がった (3ページ目)

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara
  • 写真提供:パカパカファーム

 草食動物の馬は、本能的に生まれてからまず立とうとする。なるべく早く動けるようにならないと、肉食動物たちに狙われるからだ。しかし生まれたばかりだからこそ、すぐに立てる仔馬もいれば、なかなか立てない仔馬も出てくる。それを分けるのは、仔馬自身の持つ体力。生まれてすぐに立てる仔馬は、それだけ体力に恵まれていると言えるだろう。

 サラブレッドの仔馬なら、立つのに30分~40分はかかるのが普通。それをディープブリランテは15分ほどで立ち上がった。この記憶は今でも伊藤氏の心に残っている。

 さらに、パカパカファームでは生まれた翌日に必ず仔馬の立ち姿を写真に収めるのだが、撮影したスタッフは「ディープブリランテほど綺麗に立った馬はいない」と振り返った(1ページ目の写真参照)。

 生まれながらに素晴らしい馬体を持ったディープブリランテ。たが、気がかりがひとつだけあった。サラブレッドとしては「遅生まれ」ということだ。1~3月に生まれた同年齢の馬と比べると、成長が遅れる分、どうしても大きさで見劣ってしまう。そのため、当歳(0歳)のセリ市では、過小評価される可能性があるのだ。

 もちろん生まれた翌年、1歳のセリ市まで待てば、早くに生まれた馬たちと比べても遜色ない馬体に育つ。だが、スウィーニィ氏は、それからわずか2カ月後に行なわれる競走馬のセリ市「セレクトセール」に、当歳のディープブリランテを上場することを決めた。

 いったい、そこにはどんな考えがあったのか。次回は、ディープブリランテがセレクトセールに上場されるまでの日々を追う。

(つづく)

  ハリー・スウィーニィ

1961年、アイルランド生まれ。獣医師としてヨーロッパの牧場や厩舎で働くと、1990年に来日。『大樹ファーム』の場長、『待兼牧場』の総支配人を歴任。その後、2001年に『パカパカファーム』を設立。2012年には生産馬のディープブリランテが日本ダービーを制した。
『パカパカファーム』facebook>

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