【競馬】あの三冠馬が使ったシャドーロールは本当に効果があるのか (2ページ目)

  • text by Sportiva

――話がちょっと逸れてしまいましたが、シャドーロールの話に戻しましょう。いくつかの効果を期待されているシャドーロールですが、着用したことで、逆にマイナスに作用したことはありますか。

秋山 そういうケースもありましたね。結局、足もとの視界が遮(さえぎ)られることで、不快に感じる馬がいるんですよ。それで、動かなくなったり、暴れたりした馬もいました。それに、先ほどの話に戻ってしまいますが、頭の高い馬に使ってみたら、逆にもっと頭の高いフォームになってしまったことがありました。とはいえ、シャドーロール単体では効果がないけれども、ブリンカーやチークピーシズと組み合わせることで効果が出ることがあります。後ろ、横、そして下といろいろな方向の視野を狭めることで、より集中力が増した馬がいました。あと、飾りの要素でシャドーロールをつけている場合もあります。

――「飾り」というのは、いわゆるお洒落ですか?

秋山 そういうことです(笑)。ブリンカーなどと組み合わせて、カラフルに装備している馬もいましたからね。例えば、厩舎のカラーが青だったら、管理馬にそろって青のシャドーロールをつけている厩舎もありましたよ。それなら、レースや追い切りのときに、自分の厩舎の馬が見つけやすいというメリットがあるのかもしれませんね。

パシュファイヤーを装着すると周囲がぼんやりとしか見えない。パシュファイヤーを装着すると周囲がぼんやりとしか見えない。――さて次は、パシュファイヤーについて教えてください。

秋山 パシュファイヤーは、覆面のようなマスクの目穴部分が網状の目隠しになっているもので、ブリンカーやチークピーシズと同様、視野を制限して馬の集中力を高める効果があります。別名、ホライゾネットと呼ばれています。ブリンカーやチークピーシズと違って、パシュファイヤーを装着してレースに出ることはほとんどありません。パドックまでとか、ゲートインまで着用していて、レースの前に外すのが一般的です。

 自分で試しに、パシュファイヤーをかぶってみたことがあるんですが(笑)、視界はかなり制限されて、目の前にある物の形を正確にとらえるのは難しかったですね。弱視の馬の場合はさらに見えなくなると思うので、目に入ってくるモノすべてが気になってしまう、物見(ものみ)が酷い馬や、カッと熱くなりやすい馬を制御するには相当な効果が期待できます。全体にぼんやりとしか見えないので、周りに何があるのかわからなくて、安心感が増すのではないでしょうか。

――パシュファイヤーはレースではあまり使用しないということでしたが、着用して出走した馬に効果はなかったのでしょうか。

秋山 そんなことはありません。過去に私が管理していた、アクレイム(牡)とチェストウイング(牡)という馬には、効果がありましたよ。2頭ともすごく入れ込みやすいタイプで、競馬場に到着してレースまで出張馬房に待機している間に(体力を)消耗してしまうんです。そこで、パシュファイヤーを使用したところ、かなりの変化が見られました。とても落ち着いていて、レースでも結果を出せるようになりました。周囲がぼんやりとしか見えないので、人に頼ろうとして、騎乗者の指示に従いやすくなったんです。

 以来、レース当日はもちろんですが、普段の運動や調教のときから、パシュファイヤーを装着して入れ込まないようにしていました。パシュファイヤーはずっと着用していても、慣れて効果が薄くなることがないので、この2頭を管理するうえでは、本当に助かりました。ただし、パシュファイヤーをはじめ、すべての馬具は、どんな馬にも効果があるとは限りません。そこは、調教師が常に試行錯誤を繰り返して、馬に合ったものを使用することが大切です。
(つづく)

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