【競馬】アイルランド人だからこそ見出せた、新たな競馬ビジネス (2ページ目)

  • 河合 力●文 text&photo by Kawai Chikara

 ちなみに、繁殖牝馬を売買する際のおおよその価格相場を紹介すると、2012年の10月24日に北海道で行なわれた、国内唯一の繁殖牝馬対象セリ市『ジェイエス繁殖馬セール』において、売却された繁殖牝馬137頭の平均価格は504万2453円。20万円ほどの馬から1億円近い値がつく馬まで、売却価格は繁殖牝馬ごとに大きな差があるが、いずれにせよ、一般の私たちには想像し難い額のお金が動いていることは確かだ。そのため、スウィーニィ氏の思い当たったビジネスも、成功したときの利益は多大なものとなる。

 だが、当然のことながら、日本での購入額を海外での売却額が上回らなければこのビジネスは成り立たない。つまり、日本よりも海外で高い価値(価格)のつく繁殖牝馬を見つけないことには、決して利益は生まれないのだ。しかし、スウィーニィ氏はこの部分に自信があった。

「もちろん、繁殖牝馬を"運任せ"で選び、海外で売って利益を得ようと思っていたわけではありません。繁殖牝馬を選ぶ際に私が最重視したのは、血統です。その牝馬の父はどんな馬なのか、あるいは、その牝馬の兄弟や近親にどんな馬がいるのか。そこに注目することで、日本では評価が低くても、海外では一気に価値が高まる繁殖牝馬を見出すことができる。私は、その考えが間違っていないと信じていたからこそ、待兼牧場を辞めて、ひとりでこのチャレンジを行なう決断を下したのです」

 競馬は「血のスポーツ」と呼ばれるほど、血統がもたらす影響が大きい。名馬を生むためには、いかに優良な血を持つ種牡馬と繁殖牝馬を配合させるかが重要な要素となる。

 競馬後進国の日本は、今でこそディープインパクト(三冠を含む国内GIレース7勝)や、キングカメハメハ(日本ダービーなどGI2勝)など、日本で競走生活を過ごした馬が種牡馬としても大活躍しているが、ほんの数年前までは、サンデーサイレンスやノーザンテーストなど、アメリカやヨーロッパで競走生活を終えた馬が種牡馬として多数輸入され、日本競馬を牽引していた。

 そのような、海外から日本に輸入された種牡馬の中で、いったんは先進国が手放しながらも、その種牡馬の血を再びその国が欲しがるというケースがよくあった。スウィーニィ氏はそこに目をつけたのだ。

「例えば、いちばんわかりやすいのが、ダンシングブレーヴという種牡馬です。この馬は、1991年にイギリスから輸入され、当時日本でもある程度は活躍馬を出していました。しかし、ダンシングブレーヴを父に持つ繁殖牝馬をセリ市に出す場合、同じ血統でもヨーロッパなら日本より数倍高い値段で落札されるんですね。これは大きなビジネスチャンスです」

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