久保建英が打ち破った「日本人への偏見」 CLに湧くサンセバスチャンの今 (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

【代表でのプレーもチェックするコーチ陣】

 とりわけ、ゴールキーパーへの影響は強かった。当時、どこにでも芝生のグラウンドがあるわけではなかったなかで、ビーチでは土のようにケガを心配せず、思いきって跳んで、ボールに食らいつけた。理想的なトレーニング環境で、今も敬愛されるゴールキーパー、ルイス・アルコナダ(ラ・レアルでラ・リーガを連覇、スペイン代表としてもEUROで準優勝)を輩出している。

 複合的なスポーツへの愛好が、ラ・レアルの運動能力の高さの基礎にあると言われる。サッカーと並ぶ人気競技、ペロタ(テニスやスカッシュの原点とも言われる)は象徴的で、空中を高速で飛び交うボールを正確にヒットする動きは空間認識力を高め、素早いステップは俊敏性を引き出すという。どんな町や村にもペロタの施設があるほどで、サッカー選手の道を進むか、悩むケースも少なくない。

 9月の代表戦ウィークの後、トップチームは代表組以外で非公開練習を行なっていた。練習後、特別にイマノル・アルグアシル監督やコーチ陣と会うことができた。

「ドイツ戦のタケのアシストはすばらしかったよ」

 コーチのひとりが言った。当然だが、代表でのプレーはチェックしていた。試合をクローズする展開、攻め手は限られていたが、守りながらカウンターでも最大限の力を発揮できるところは、久保が大きく成長した点だという。

「(アルグアシル)監督に信頼を与えられたことで、久保は覚醒した」

 その声は現地で多く聞こえたが、コーチ陣は久保自身がラ・レアルというクラブに適応した点も強調していた。久保のキャラクターが、ほとんど運命的にマッチしたのだ。

 技術以上に特記すべきは、久保の勝利に対する貪欲さだろう。

 ラ・レアルの関係者も舌を巻き、鼻白むほど強烈だという。だからこそ、アウェー選手を押し潰すような重い空気を放つ満員のサンティアゴ・ベルナベウ(レアル・マドリードの本拠地)で、「久保のリサイタル」という活躍をやってのけられた。もっとも、本人は負けた悔しさを持て余すように俯いて歩き、憤然と荒々しくリストバンドを剥ぎ取る姿があった......。

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