三笘薫「スーパーゴール」の歴史的価値 選手としての価値も2段階は上昇した (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by Reuters/AFLO

【真骨頂だった2点目アシスト】

 日本人選手が欧州で記録したスーパーゴールと言えば2000-01シーズン、ローマに所属した中田英寿がユベントス戦で放った一撃をまず想起する。2009-10 シーズン、CSKAモスクワ所属の本田圭佑がチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦対セビージャ戦で放ったFK弾も秀逸だった、日本人選手の名を高める一撃として記憶される。

 だが、この2つはキックによるものだった。ゴールまで実質残り40メートル強を単独ドリブルでこじ開けた日本人選手はいない。1996-97シーズン、バルサの一員だったブラジル代表FWロナウドが、コンポステーラ戦で魅せた60メートルのドリブルシュートと比べたくなるほどだ。ただしロナウドのゴールは、多少、馬力まかせと言うか、強引なプレーだったことも事実。きれいさ、美しさという点では今回の三笘のほうが上だ。

 神様、ディエゴ・マラドーナの1986年メキシコW杯準々決勝対イングランド戦のスーパーゴールを持ち出すのはさすがに気が引けるが、それでもあえて言うなら、当時の守備のレベルは低かった。

 三笘自身のスーパープレーと言えば、筆者の見解では2021年のJリーグ対横浜FC戦で魅せた80メートル強のドリブルになる。だが、この時のスコアラーは小林悠だった。三笘はアシスト役にとどまっている。

 ウルブス戦に話を戻せば、前半のロスタイムにもシュートを打てたシーンがあった。ダニー・ウェルベックのシュートを、相手GKがセーブ。そのこぼれ球が三笘の前に転がってきたのだ。しかし、三笘は打たなかった。左サイドでコンビを組むエストゥピニャンへのラストパスとした。

 中田、本田、ロナウド、マラドーナなど、内外の歴代スーパースターは、たいていがオレオレ系だ。一方、三笘は非の打ちどころのない100点満点のスーパーゴールを放っても派手な雄叫びを上げない。飄々とマイペースを貫き、次のチャンスには仲間を使おうとする。狡賢い選手で溢れるこの世界において、優等生キャラを崩さない世界的に希少な選手と言える。

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