エレベーターで高級車を部屋へ... メッシがマイアミで手にしたもの、失ったもの (2ページ目)

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

【「故郷」に帰れなかったメッシ】

 PSGに行ったことは、メッシの人生最大の過ちだったのだろう。パリでメッシは苦しい思いしかしなかった。チャンピオンズリーグ(CL)は優勝できず、プレッシャーは大きく、フランス語はわからず、最後はサポーターに「出て行け」と抗議までされた。そうした傷を癒すには「故郷」に戻ることが必要だったはずだ。

 バルセロナには友人のシャビもいる、彼を愛するサポーターもいる。もし両者がもう少し歩み寄れたなら、結果は違っていたはずだ。結局はメッシもバルサも、PSGへの移籍騒動から何も学んでいなかったわけだ。

 この成り行きに苦しんでいるのはバルセロナのサポーターだ。確かにメッシがPSGに移籍した時は「他のクラブチームを使ってバルサに復讐をした」と怒っていた連中もいたが、時が経つにつれメッシを慕う気持ちのほうが勝ってきた。彼らはこの夏の帰還をずっと待ち望んでいた。今、彼らは見捨てられたような気分を味わっているだろう。サポーターの気持ちは完全に置き去りにされている。

 カンプノウには1950年代のスター、ハンガリーのラディスラオ・クバラと、ヨハン・クライフの銅像が立っている。そこにメッシの銅像も建てられる予定だった。しかしその場所には、今はゴミがうず高く積まれている。

 故郷に帰れないメッシが、その代わりに得たのは金だ。

 インテル・マイアミのオーナーのホルヘ・マスは、メッシがバルセロナにいる2019年からすでに交渉を始めていたと明かしている。キューバ系アメリカ人のマスは、サッカーのことをほとんど知らない。だが、ビジネス界で成功した人間だけに嗅覚はすごいものがある。彼はメッシを使い、アメリカのサッカービジネスをより大きなものにしようとしている。

 そのため、メッシ獲得にはいくらでも金を払えと指示していたと聞く。実際、メッシの契約はサッカー選手というよりは、映画配給権のような契約だ。年俸やボーナスなどの他に、チケットの売上金の一部、ユニホームやグッズの売り上げの一部、「Apple TV」の加入者増加による利益の一部、そしてMLSの新しいチームを作る権利まで与えられた。2025年には新しいスタジアムもメッシのために作る予定だ。

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