カタールW杯の女性たち。おとなしくしていたセレブと存在感を発揮したイランサポーター (2ページ目)

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

【驚きのサウジアラビアサポーター】

 そんな規則が嫌で、イングランドのWAGSたちは宿泊先にイタリアの豪華客船を選んだ。船に入ってしまえば服装もアルコールも自由。イングランド代表はコロナ対策のためバブル方式を採っていたので、どちらにせよ大会中、妻は夫とは会えない(一方、ドイツ代表は妻たちを2日間代表ホテルに泊まらせた)。彼女たちは仲間内で楽しむようにしたようだ。スタンドでは彼女たちが眠そうにあくびする姿が目撃されている。

 一方で今回は、いつものW杯ではなかなか見られない女性たちの姿がスタンドにあった。ムスリムの女性サポーターだ。なかでも一番多かったのは隣国サウジアラビアからの女性サポーター。初戦でアルゼンチンを下して以降、多くのサウジアラビア人がカタールにやって来たが、そのなかには女性も少なくなかった。その数1000人近く。サウジアラビアはカタールと違いサッカーに熱い国だが、国内でサッカーを見に行く女性は少数派だ。だが、緑のサウジアラビア国旗を振る姿はまさしくサッカーサポーターだった。このような大勢の女性サポーターを見るのは驚きでもあり、喜びでもあった。

 大躍進のモロッコの女性サポーターは、サウジアラビア女性に比べるとずっとカジュアルな格好をしていて、応援も活発だ。頭髪を覆っていない者もいるし、覆っていてもその布はカラフルだ。同じムスリムの国でもかなり違いがあることがよくわかった。

 特筆すべきはイランの女性サポーターだ。イランでは9月に22歳の女性がヒジャブを適切にかぶっていなかったとして警察に拘束された後、死亡した。この事件に端を発し大規模な女性の人権を求めるデモが行なわれ、衝突で400人以上が亡くなったとも報道されている。イラン代表が国歌を一切歌わず、抗議の意思を示したのは大きなニュースになった。

 スタンドのイラン女性はグループリーグの試合を重ねるごとに増えていった。スタジアムは彼女たちにとって抗議の意思を世界に伝える、またとない舞台でもあった。彼女たちはTシャツにパンツ姿で、髪の毛も隠さない。亡くなった女性の名前のついたユニフォームをかざし、「女性、生命、自由」のスローガンを掲げ、顔には涙の痕のペインティングをしている者もいた。ほとんどはアメリカやヨーロッパに住むイラン女性だが、少数だがテヘランから来ている人もいた。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る