メッシとフェデラーに共通する能力。アスリートには年齢を重ねたからこそできることがある (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

情熱もうまく鎮められるようになる

 すばらしいアスリートは年を重ねるにつれて、自分の道具箱のなかからベストの選択を見つけ出す。マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督は、メッシのプレーを録画で見ていてポーズボタンを押すと、彼がつねに最善の選択をしていることがわかると語った。

 しかし、メッシがその段階にたどり着くには、長い時間がかかった。2005~08年にメッシのスルーパス、ペナルティーボックス内へのパス、アシストは増え続けた。その後は、パスやゴールにつながったドリブルの割合が高くなりはじめたが、ドリブル自体の頻度は少しだけ減っていった。

 32歳のときにメッシは言った。「試合をより深く読むことを学んだ。どの瞬間にどこにいれば効果的で、決定的なプレーができるかがわかってきた」

 そして年を重ねるにつれ、選手たちはフットボールへのほとばしるような情熱をうまく鎮められるようになる。ズラタン・イブラヒモビッチは最近出版した自伝『アドレナリン』に、所属するミランがローマとのアウェーゲームでPKを獲得した時のことを書いている。チームメイトのフランク・ケシエが、イブラヒモビッチに蹴るように言った。もうじき交代させられることがわかっていたイブラヒモビッチは、こう思った。

「10年前だったら、そのボールを奪い取って蹴っていた。2点目を決めてからピッチを去るんだと、俺のエゴが要求しただろう」

「でも、今は違う。チームが自信を深め、自分たちが主導権を握っていると感じるのを目にしたい。俺はもうすぐピッチを去るが、仲間たちには勝ち点3をしっかりホームに持って帰るだけの強さを持ってほしい」

「俺は答えた。『いや、フランク。おまえが蹴るんだ』」

 ケシエはPKを決め、イブラヒモビッチはピッチを去り、ミランは勝利をつかんだ。イブラヒモビッチは、こうつづる。

「以前の俺は、100%アドレナリンだった。今はアドレナリンとバランスの両方が大事だ」

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