カタールW杯の密かな優勝候補? オランダが強いのは、代名詞「トータルフットボール」じゃないほうの時 (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

好成績を出すのは地味なほうのオランダ

 カタールW杯に臨むオランダは好調だ。ネーションズリーグでは5勝1分の無敗でグループリーグを首位通過している。だが、トータルフットボールの国のプレーにはかつての片鱗すらない。

 代表監督は3度目のルイ・ファン・ハール。前立腺ガンを患っていることを公表している。

 ファン・ハール監督が率いる現在のオランダは、1974年とは似ても似つかない。本人が率いた、機能的で破壊力抜群だった1990年代前半のアヤックスの面影もない。ジャージの色がオレンジでなければ、オランダ代表とは思わないかもしれないぐらいである。

 オランダは1974年に続いて1978年アルゼンチンW杯も決勝へ進んでいる。名将エルンスト・ハッペルが指揮を執り、クライフ以外のメンバーもそっくり残っていたが、この時のチームも4年前とは全然違っていた。

 2度の決勝で開催国に敗れたあとは、ことごとく優勝国に敗れている。ルート・フリット、マルコ・ファン・バステン、フランク・ライカールトを擁して優勝候補だった1990年イタリアW杯は、西ドイツに競り負けてベスト16。1994年アメリカW杯は、ブラジルに敗れてベスト8。

 1998年フランスW杯の準決勝で負けた相手のブラジルは、準優勝だったが強力なチームだった。2010年南アフリカW杯は3度目の決勝に臨んだがスペインに延長で負け。ファン・ハールが率いた2014年ブラジルW杯は、準決勝でリオネル・メッシを擁するアルゼンチンに敗れた。いずれも接戦で、オランダは優勝していないのが不思議なほどの強国になっている。

 興味深いのは、トレードマークの攻撃的なスタイルを標榜した時よりも、そうでない時のほうがワールドカップでの戦績がいいことだ。ベスト4以上が5回あるが、最初の1974年を除けばあまりオランダらしくない。

 フース・ヒディンク監督が率いた1998年は、攻撃型だったが伝統のウイングを置いていない。2010年のベルト・ファン・マルバイク監督のチームはテクニックよりフィジカルが目立っていた。2014年のファン・ハール監督の時はスペインを葬ったカウンターが光る戦略的な構成。一方、1974年の影を追ったオランダはことごとくベスト4の手前で失速している。

オランダ代表の主要メンバーオランダ代表の主要メンバーこの記事に関連する写真を見る 現在のオランダは"らしくない"ほうのオランダだ。

 ファン・ハール監督は、国民システムである4-3-3を3バックへ変更している。そうするのにしっかり説明して理解を得なければならないのがオランダらしいところだが、プレースタイルはあまりオランダらしくない。

 得意のサイドアタックはほとんどなく、ステフェン・ベルフハイス、デイビー・クラーセンからのパスで中央を破るルートが主となっている。ただそれも破壊力抜群とは言い難い。おそらく最も有名な選手がセンターバックのフィルジル・ファン・ダイクというところにチームの現状が表れているようだ。

 地味なオランダである。守備的ではないが身の丈はしっかり弁えている。グループリーグの組分けにも恵まれた。そして、こういう時のオランダは意外と強い。

 1974年のトータルフットボールは革命的で歴史にその名を刻印した、誰もが憧れるカッコよさに溢れていたが、高転びに転んだチームでもあった。当のオランダ人は、きっとそのことも忘れていないのだろう。

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