買収から10年。アメリカの富豪がマンUで行なったこと (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper  森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 その見方は正しかった。現在、オルメルトは汚職事件がらみで有罪判決を受け、まもなく刑務所に入れられるかもしれない。しかしグレイザー家には、バラ色の日々が続いている。

 グレイザー家がユナイテッドを買収してから、この5月でちょうど10年になる。買収額は7億9000万ポンド(当時のレートで約1580億円)と、フットボール史上最高だった。グレイザー家は買収資金のほとんどは借金によって工面し、その巨額の負債をユナイテッドに背負わせた。そして彼らはこの10年間で、ユナイテッドから5~7億ポンドという金を吸い上げている。

 サポーターの間では「グレイザーなんか死んじまえ」というチャントがすっかりおなじみになっている。だがグレイザー家のスポークスマン的な役割を務めていたテシン・ナヤニが新著『グレイザー家の門番(原題 The Glazer Gatekeeper)』で書いたように、グレイザー家はゲームに勝ったようだ。残念ながら、彼らはフットボールの未来だ。

 ナヤニはイギリス人でリバプールのファンだが、ほとんど口を開かないグレイザー家のスポークスマンとして6年間働いた。『グレイザー家の門番』は決して暴露本ではない。意図的かどうかは別としても宣伝本の役割を果たしており、ナヤニはグレイザー家とユナイテッドの関係者すべてをすばらしい人々として描いている。しかし誰よりもグレイザー家に近い場所にいた彼は、グレイザー家がユナイテッドをどう考えているかを明らかにしようとしている。

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