【イングランド】マンU、シティ...今季のビッグクラブの監督を評価する

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by Getty Images

マンチェスター・シティに44年ぶり3度目、プレミア移行後は初となる優勝をもたらしたマンチーニ監督マンチェスター・シティに44年ぶり3度目、プレミア移行後は初となる優勝をもたらしたマンチーニ監督【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】2011~2012プレミアの監督たち(前編)

 一般企業の管理職なら、年に1度は業績評価のミーティングに呼び出されるだろう。フットボールのクラブは一般企業ではない(そもそもクラブはほとんど収益をあげていない)が、たいていはなんらかの評価を行なっている。監督はクラブの理事たちに会い、1シーズンを振り返る。

 この数週間にプレミアリーグのビッグクラブで繰り広げられている光景を想像してみよう。マンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソンは、最後の最後にリーグ優勝を逃したが、これまで以上に自信に満ちた顔で会議室に入っていけるだろう。リバプールのケニー・ダルグリッシュはそうはいかず、理事たちに会えたかどうかも疑わしいタイミングで解任された。ここでは6つのビッグクラブの監督がどんなシーズンを送ったか評価してみたい。

 最初に断っておきたいことがある。フットボールクラブの成績を左右する最も重要な要素は監督ではない。選手年俸の総額だ。一般的な傾向として、年俸総額の高いクラブほどリーグでの順位は高くなる。年俸総額は、マンチェスター・ユナイテッドがウルバーハンプトン・ワンダラーズよりもいい成績をあげている大きな理由だ。選手はクラブの成績を左右するが、監督はそれほどではない。

 スポーツ経済学者のステファン・シマンスキーと僕は、共著『サッカーノミクス』(邦訳『「ジャパン」はなぜ負けるのか~経済学が解明するサッカーの不条理』NHK出版)の改訂版を作るために、1974~2010年のイングランドの監督たちを分析した。すると約90%の監督はキャリアを通じて、選手年俸の総額から予測できるものとほぼ変わらない成績を上げていた。これらの監督はクラブに付加価値をもたらしていないことになる。

 しかし、年俸総額から予測できるものより優れた成績を一貫してあげているエリート監督たちがいる。当然ながら、彼らの多くはビッグクラブを指揮することになる。シマンスキーの分析から導き出された1974~2010年のイングランドでの優秀な監督トップ5は、以下のとおりだ。

 ボブ・ペイズリー
 アレックス・ファーガソン
 ボビー・ロブソン
 アーセン・ベンゲル
 ケニー・ダルグリッシュ

 シマンスキーと僕は、彼らが指揮した全クラブのリーグ順位とそのときの選手年俸総額のデータを集めて、この5人のエリートを割り出した。ここにブライアン・クラフの名があってもいいと思えるが、彼が指揮していた当時のノッティンガム・フォレストの年俸データが入手できず、評価できなかった。ジョゼ・モウリーニョが入っていないのは、この分析ではイングランドで5年以上働いた監督を対象にしたためだ。

 2011~12シーズンの監督たちの仕事を評価するには、現在のクラブの選手年俸のデータが必要になる。これはけっこう面倒だ。選手年俸について会計監査も受けた最新のデータは、2009~10シーズンのものだからだ。このシーズンの年俸総額上位のクラブは次のようになる。

 2009~10シーズンの選手年俸トップ5(カッコ内は2008~09シーズンの数字)

1 チェルシー  1億7400万ポンド、当時のレートで約250億円(1億6700万ポンド)
2 マンチェスター・シティ  1億3300万ポンド(8300万ポンド)
3 マンチェスター・ユナイテッド 1億3200万ポンド(1億2300万ポンド)
4 リバプール  1億2100万ポンド(1億700万ポンド)
5 アーセナル  1億1100万ポンド(1億400万ポンド)
(資料:デロイト)

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