ヴィッセル神戸・武藤嘉紀、今だから明かせる優勝秘話 肺挫傷の大ケガ→ドクターストップの可能性も「是が非でもピッチに立ちたい」 (4ページ目)

  • 高村美砂●取材・文 text by Takamura Misa

「肺から出血していたらドクターストップだと言われていて、実際にレントゲンを撮ったら、出血が見られたんです。でも、その箇所が幸い心臓には近くなかったことと、浦和戦後、名古屋戦までに2週間インターバルがあったので、1週間安静にしていたら出られるかもしれません、と。

 なので、とにかく1週間は動きたい気持ちを抑えて安静に過ごしたんですけど、初めの3日間は咳をしただけで血が混ざるしで......。正直、不安でした。そこを乗り越えてからも、ベタ休みした状態から体を起こさなければいけないのが大変でしたしね。

 かといって、急に上げすぎるのもダメだと言われ......。そこは、本当にトレーナー陣、ドクター陣にいいサポートをしていただいたのと、あとは気合い? 優勝を決められるかもしれない試合に『是が非でもピッチに立っていたい』という思いだけで、名古屋戦に復帰しました」

 しかも、名古屋戦に先発した武藤は、スタートからそんなアクシデントをまったく感じさせないパフォーマンスでチームを牽引。前半14分にはチームを勢いづける2点目を決めて優勝に貢献している。改めて、彼のたぎる想いに触れた気がした。

「プロサッカー選手は見た目こそ華やかだけど、裏ではみんな、口にできない思いや、痛み、苦しさ、つらい体験、きついトレーニングを乗り越えてピッチに立っている。だけど、そこに負けずに戦い続けることで見えること、得られるものは絶対にある。昨年はその積み重ねがもたらすものの大きさを改めて感じられたシーズンだったからこそ、『今年も』という思いは強いです」

 変わらない熱き闘志を引き連れて、武藤嘉紀のプロ12年目が始まった。

武藤嘉紀(むとう・よしのり)
1992年7月15日生まれ。東京都出身。ヴィッセル神戸所属のFW。2014年、慶応大在学中にFC東京入り。新人ながらふた桁ゴールをマークしてブレイクした。2015年夏にはドイツのマインツに移籍。その後、イングランドのニューカッスル、スペインのエイバルでプレーし、2021年8月に神戸入り。2023シーズンにはふた桁得点を挙げて、チームのリーグ初優勝に貢献した。日本代表でも活躍し、2018年ロシアW杯に出場。国際Aマッチ出場29試合。3得点。

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