遠藤保仁らしい幕引き――「引退するまでは伏せていたい」知られざる戦い「ケガも友だち」 (2ページ目)

  • 高村美砂●文 text by Takamura Misa

 その身に纏う、のんびりした空気、どんな状況にも動じない落ち着きもあってか、どことなくゆっくりと、涼しい顔でプレーしているように映ることの多い遠藤だが、彼に限らず、厳しい競争の世界に身を置くトップアスリートに、才能だけに甘んじて、そのキャリアを積み上げている選手はいない。

 彼も例に漏れず、自分が思うプレーを表現するため、チームを勝ちに導くために、何よりサッカーを楽しむために日々、真摯に自分と向き合ってきた。

「練習での取り組みは、ちゃんとプレーに出る。プロはそれで評価されればいい。必死に戦うとか、チームのために全力を尽くすのは当たり前として、ピッチの上で勝つための仕事をするのが、僕のすべて。パフォーマンス以外のことで注目されたり、自分を大きく見せるのはあまり好きじゃない」

 そんな思いもあってだろう。取材陣やファン・サポーターの目に映る場所以外での戦いについて、自ら明かすことはほぼなかったが、周りのスタッフ陣やチームメイトから、彼の見えない"戦い"について耳にしたのは、一度や二度ではない。

 実際、自主トレや体のケア、治療に至るまで、そのつど、自分に必要だと感じたことには真摯に取り組み、時代の流れに応じて備えるべきだと感じたことは――仮にそれが、彼にとって苦手なことだったとしても――目を背けずに向き合ったと聞く。「データには興味がない」としながらも、自身に直結するデータにだけは、細かく目を配ることも忘れなかった。

「過去のデータや、他の選手と比べたデータは必要としないけど、その時々で自分に直結するデータだけは、自分のいい部分、足りない部分を知る参考になるし、自分を成長させるには必要だと思う」

 本人の「引退するまでは伏せていたい」という意思を汲んでこれまで記事にすることはなかったものの、ガンバ時代は、出場を見送ってもおかしくないレベルのケガを押してピッチに立っていたこともあるし、タイトルを懸けた大一番で肋骨を骨折したままフル出場したこともある。それは、晩年のジュビロ磐田時代も然りだ。

 もちろん、ひとたびピッチに立てば、それをまったく感じさせないパフォーマンスを繰り広げ、試合後には涼しい顔で話していたが。

「幸いプレースタイル的に、そこまで局面でバチバチするタイプでもないのもあるけど、もし試合中にぶつかられて骨が内臓にでも刺さったら大変やから、意識的に球離れを早くしていました。それも、テンポやリズムを変える方法のひとつだと考えればいいというか......。

 もちろん、チームに迷惑がかかるレベルならもう少し慎重になったけど、そこは大丈夫。ピッチに立つ限り、チームには(自分がいることで)プラスしか与えないと思っていたから(笑)」

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