新生・青森山田は「黒田スタイル」とはちょっと違う 象徴するゴールはカウンターから奪った3点目 (2ページ目)

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei

【青森山田はそのまま崩れてもおかしくなかった】

 前半から目についたのは、近江のプレス回避の巧みさだった。

 プレスに動じずドリブルで1枚剥がす技術の高さは、鍛えられてきたチームの証(あかし)だろう。したがって青森山田にとってはプレスがハマらない時間帯が続いたが、それでも33分にチャンスを逃さず先制ゴールを奪うと、ボールを持たれながらも要所を締めた守備で相手にシュートを打たせなかった。

「(近江は)非常に高い技術を持っている選手たちが多いので、ボールホルダーをしっかりと自分たちの前に置いて守備をしようと。1枚剥がされたとしても、もう1枚という形で、次から次へとボールホルダーに対してアプローチできるように、中盤の枚数を意図的に増やしながら対応しました」

 青森山田の正木昌宣監督が明かしたように、たとえ回避されても、すぐさま次の選手がアプローチを仕掛けていくプレスの連続性が、小気味よく映った近江の攻撃をゴールから遠ざけた。

 ところが前半終了間際、この試合で初めて決定機を作られてしまう。そうした流れのなかで迎えた、後半立ち上がりの失点だった。

 そのまま崩れてしまってもおかしくはなかったが、青森山田の選手たちは決して下を向くことはなかった。

「相手の分析もしましたけど、自分たちにベクトルを向けて、自分たちのやるべきサッカーをしたら、絶対に勝てると思っていました。失点したあとの戦い方は、すごくよかったと思います」

 山本が言うように、青森山田はあくまで「自分たちの戦い」を貫いたのだ。球際で闘い、切り替えを速くし、プレーの強度を保ち続ける。時間が経つにつれて動きが衰えた近江に対し、青森山田の選手たちはまるで疲れを知らないかのように、ピッチで躍動し続けた。

「選手たちがこの大舞台でも緊張することなく、1年間積み上げてきたハードワークすること、そして『いい守備からいい攻撃』というところを90分間、徹底してくれたこと。これがすべてだと思っています」

 試合後、涙をこらえきれなかった正木監督は、決勝の舞台でも通常モードでプレーした選手たちの奮闘を称えた。

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