審判員は「間違えた時は叩かれていい。ただ、いることが当たり前ではない」レフェリー歴16年・佐藤隆治の覚悟と想い (5ページ目)

  • 戸塚 啓●取材・文 text by Totsuka Kei

 国際的な経験を積めば、個は磨かれていく。ここで難しいのは、審判員には海外移籍がないことだ。協会同士の交流プログラムによる短期留学などを除けば、どこの国の審判員も自国のリーグを主戦場とする。

 佐藤がうなずく。

「選手と同じようにプレミアリーグやブンデスリーガで経験できたら最高ですが、今のシステムでは無理です。そうすると、世界を肌で知ることができるのは、ワールドカップだろうと思います」

 佐藤自身はワールドカップで笛を吹いたことがない。2018年のロシア大会は審判団に選出されたものの、4試合で第4審を務めるだけに終わった。次こそはとの決意で向かった2022年のカタール大会は、リスト入りすることができなかった。

「日本の審判員の育成や指導は世界で通用する、Jリーグで活動していればワールドカップでもできるんだということを、自分が経験したうえで発信したかったというのはあります。選手がこれだけ世界で活躍している状況を考えると、僕らも負けていられません。選手側と両輪になってレベルアップしていかないと、日本サッカー全体の成長にどこかでひずみが生じると思いますので」

 疑義の生じる判定を、ひとつでも減らしていくために。

 世界のトップレベルに立つ審判員を、輩出するために。

 佐藤が属するJFAの審判委員会は、トップ審判員の育成と強化に力を注いでいく。              

(後編につづく/文中敬称略)

◆佐藤隆治・後編>>Jリ-ガー5人をレフェリー視点で厳選「拍手したいくらいのFK」


【profile】
佐藤隆治(さとう・りゅうじ)
1977年4月16日生まれ、愛知県名古屋市出身。愛知・一宮高〜筑波大までサッカーを続け、2002年に上川徹氏の講演を聞いてレフェリーの道へ。2004年に1級審判員に登録され、2007年からJリーグで笛を吹く。2009年より国際審判員・プロフェッショナルレフェリーに登録され、2018年ロシアW杯・クラブW杯の担当審判員に選出された。2018年と2022年にJリーグの最優秀主審賞を受賞。2022年にトップリーグ担当審判員から勇退。Jリーグ主審通算400試合。

プロフィール

  • 戸塚 啓

    戸塚 啓 (とつか・けい)

    スポーツライター。 1968年生まれ、神奈川県出身。法政大学法学部卒。サッカー専誌記者を経てフリーに。サッカーワールドカップは1998年より7大会連続取材。サッカーJ2大宮アルディージャオフィシャルライター、ラグビーリーグワン東芝ブレイブルーパス東京契約ライター。近著に『JFAの挑戦-コロナと戦う日本サッカー』(小学館)

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