審判員は「間違えた時は叩かれていい。ただ、いることが当たり前ではない」レフェリー歴16年・佐藤隆治の覚悟と想い (4ページ目)

  • 戸塚 啓●取材・文 text by Totsuka Kei

 佐藤は審判員として活動した当初を思い返し、「選手も、監督も、サポーターも、厳しさのなかに優しさを感じるようになってきました」と話す。そのうえで、審判員ならではの心情を明かす。

「間違えた時は叩かれていいのです。その一方で、試合が成立するためにはいなければいけない存在であり、いることが当たり前ではない。審判員はいろいろな思いを抱えて、覚悟を持って試合に臨んでいます。そこへの理解を少し持ってもらえると、もっと思いきってやれると思います」

 疑義が生じなくても、拍手を浴びることは少ない。それが当然と受け止められる。批判はすぐに忍び寄り、賞賛はなかなか近づいてこない仕事を、佐藤はなぜプロ審判員として14年も続けることができたのだろう。

「トップカテゴリーのピッチには、限られた審判員しか立つことができません。だからこそ、ものすごいバッシングを受けたりもしますが、特別な場所で過ごす特別な時間は、かけがえのないものでした。感動、ドキドキ、緊張感、恐怖心も含めて、モチベーションになっていましたね。

 現役の審判員には、『Jリーグのピッチは誰でも立てる場所じゃない。競争だよ、クオリティを上げなきゃだめだよ』と伝えています。『辞めたらもう、戻れない。だったら、今やることがある。そのための努力をしている?』と。それは、僕みたいに辞めた立場でなければ言えませんからね」

 日本人審判員の、国際的な評価はどうなのだろう。佐藤は間を置かずに答える。

「AFC(アジアサッカー連盟)のなかでは、トップクラスだと思います。審判員だけでも25万人から26万人の登録があり、Jリーグに関われるのは百数十人で、そこに向かって各都道府県の4級審判員からJFAのカリキュラムに従ってピラミッド型に育成強化し、継続して一定水準のレフェリーを輩出できるのは、日本の強みだと思っています」

 同時に、課題も認識している。

「今シーズンからアジアチャンピオンズリーグが秋春制になり、日本人の審判員が数多くそちらに呼ばれ、J1のシーズン終盤に国内で吹けないということがありました。それは国際的な評価の証(あかし)だと思いますが、だからワールドカップや五輪で吹けるというわけではない。国際レベルにまで突き抜けていく個を、どうやって輩出していくか」

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