審判員は「間違えた時は叩かれていい。ただ、いることが当たり前ではない」レフェリー歴16年・佐藤隆治の覚悟と想い (3ページ目)

  • 戸塚 啓●取材・文 text by Totsuka Kei

 PRと呼ばれるプロフェッショナルレフェリーとして活動していた佐藤は、コロナ禍でも海外で笛を吹いた。渡航のたびに2週間の自主待機を繰り返し、その期間は年間3カ月分にも及んだ。

「僕はPRですから、自主待機も仕事でした。それが家族を守ることになり、Jリーグを守ることになりますので、当然のことでした」

 20世紀のフットボールには、「ホームタウン・デシジョン」と呼ばれるものがあった。ホームチームに有利と見られる判定だ。テクノロジーが導入された現代では、もはや成立しないもののように理解されがちである。

 佐藤も「必ずしもホームチームに有利に吹く、ということはありません」と語る。選手から「もうちょっと空気を読んで」とか、「そんな判定をしていたら、試合後にこのスタジアムから帰られないですよ」と言われたこともあった。PRとして「見たものを見たままに」を大原則としてきたが、試合後に自分のパフォーマンスを振り返ると、自らに問いかけたくなるジャッジがあった。

「6万人収容のスタジアムが、8割から9割までホームのサポーターで埋まったとします。だからといってホームチームに有利に、アウェイチームに不利に、などと考えるレフェリーはいませんが、サポーターからの応援や歓声は感じます。レフェリーもプレッシャーを受けます。

 そのなかで、グレーなプレーの判定でプレッシャーが自分の判断に影響を与えていたのでは、とのちに考えることはありました。ひとつ前の自分がジャッジした事象でのサポーターのリアクション、選手からのプレッシャーが、次の判定に少なからず影響したかな、と思うことが。そういうこともあらかじめ差し引いて、ジャッジをするべきだと思っています」

 Jリーグの野々村芳和チェアマンは、「サッカーはひとつの作品」と語る。主役はもちろん選手で、準主役はサポーターだろうか。

 審判員は? 必要以上に目立つ立場ではないものの、欠くべからずキャストである。彼らがいることで、ピッチ上の秩序が保たれる。

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