審判員は「間違えた時は叩かれていい。ただ、いることが当たり前ではない」レフェリー歴16年・佐藤隆治の覚悟と想い (2ページ目)

  • 戸塚 啓●取材・文 text by Totsuka Kei

 JリーグのVARは、12台のカメラで運用されている。それに対して、プレミアリーグでは20台を超える。

 では、イングランドで疑義を呼ぶ判定はないのか。

 決してそうではない。

「疑義の生じる判定があれば、そこにはホームチーム、アウェーチーム、選手、監督、サポーター、それぞれの立場でそれぞれの感情がある。当然のことですが、事象に対する受け止め方は変わってくるので、『あの判定は間違っている』という批判の声が挙がるのは仕方がありません。

 選手のみなさんだって、いつも応援してくれているサポーターから批判されることがある。批判されるのは審判員だけではないとわかっていますけれど、僕らは基本的に褒められることはありません」

 SNSなどを使った誹謗中傷が、審判員へ向けられることがある。それが例外的でないのだ。殺人予告のような事案もあると聞く。

 誰かひとりでもそのような脅迫を受ければ、ほかの審判員にも不安が広がる。審判員としての活動を続けることに、恐怖を覚えるに違いない。家族に反対されることもあるはずだ。

 それでも、審判員が不足したことはない。審判員が揃わなかったことを理由として、Jリーグの試合が不成立となったことは、一度もないのである。

 コロナ禍もそうだった。日本中が大きな感染の波に襲われても、J1、J2、J3のすべての試合が予定どおりに消化されていった。インフルエンザが全国的に流行した今夏も、審判員の不足を理由に試合が中止や順延に追い込まれることはなかった。

 佐藤が言う。

「コロナ禍では試合当日の会場入りでも検温をしましたが、自覚症状がなくてもそこでポンと熱が上がってしまったら、その試合に必要な審判員が欠けてしまいます。審判員が感染者や濃厚接触者になってしまったので割り当てが変わる、ということはありましたが、試合が不成立にならなかったのは本当によかった。

 チームはすでに到着している、上限はあるけれどサポーターも入っている、配信で楽しみにしている人がいる、という状況で中止になったら、感染対策をしながら集まっているみなさんを、ガッカリさせてしまうので。仕事をしながら審判員をしている人もいますし、家族と一緒に過ごしている人もいますので、本人だけでなく家族とか会社とか、たくさんの人たちがものすごく努力をしてくれた結果だと思います」

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