最強ジュビロにオシムが見せた衝撃「Jリーグ30年でいちばん記憶に残った試合」 (2ページ目)

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko

 オシムと言えば、多色のビブスのトレーニングが有名だが、中長期の強化も視野に入れており、このファーストステージ全体のチームマネージメントですでに画期的な試みを施している。6勝2敗2分の好成績で前半を折り返すと、中断期間の6日間で45分ハーフを12試合行なったのである。試合に臨むメンバーは登録ポジション、年齢、レギュラー、サブ、そういった枠組みを度外視されて構成された。MFの羽生(直剛)がFWに入り、ボランチの阿部(勇樹)がDFに下がる。この2人は先発だが、そこに第三GKの岡本(昌弘)が組み入れられた。これは代名詞とされた走るサッカーの蓄えと同時にポリバレントな選手の育成を目的としていた。複数のポジションに対応すべく練磨された効果はすぐに出た。12節のベガルタ仙台戦はボランチの2人、佐藤(勇人)と阿部を欠いていたが、右サイドハーフの坂本(將貴)とDFの茶野(隆行)をはめ込むと、これが見事に機能し、5―1で快勝したのである。

 直接対決の時点で、ジェフは首位に君臨し、対するジュビロは勝ち点差2でこれを追っていた。ヤマハスタジアムは立錐の余地なく、7月の暑さと満員の人いきれで熱気に覆われていた。大きなプレッシャーに押しつぶされそうな選手を前にオシムは素直に相手の強さを認め、こう言って11人をピッチに送り出した。「ジュビロはJリーグでNo.1のチーム。例え負けても恥ずかしいことではない。自分たちのサッカーをやりぬこう。それで負けてもいい」。残り3試合での首位、アウェー、勝ち点2を追われる立場、初物尽くしの緊張の中で、硬さをほぐされたジェフの選手たちは躍動する。ボールを回されるが、その都度、隙を突いては鋭利なカウンターを狙う。

 先制はやはりジュビロだった。前半27分。名波(浩)のCKを前田(遼一)が繋ぎ、グラウがヘディングで決めた。しかし、ここからジェフのギアが上がった。名波、藤田(俊哉)、服部(年宏)、田中(誠)...、地元静岡の誇る日本代表選手たちによるポゼッションに運動量で対抗、「30分過ぎてからプレーが良くなった」(オシム)。佐藤が、羽生が、湧き出るように後方から次々と前線に飛び出してボールホルダーに襲い掛かる。

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