元J1クラブがなかなか抜け出せない下位リーグ「沼」の正体 響き渡る怒号 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

【J1と社会人のレベルが混在】

 実際に松本はゴールへの道筋を感じさせ、奈良を圧倒していた。しかし敵陣からの縦パス1本を通され、呆気なく失点する。裏を取られたDFとGKが焦って交錯、まだ数的優位を保てていたが、相手をフリーにしてクロスを流し込まれた。複数の選手のミスが続く、幼稚な失点だった。

2019年にJ1を戦った松本山雅は今季、J3で9位に終わったphoto by J.LEAGUE/J.LEAGUE via Getty Images2019年にJ1を戦った松本山雅は今季、J3で9位に終わったphoto by J.LEAGUE/J.LEAGUE via Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る「今日の試合の振り返りは、今シーズンを振り返るのと同じかもしれません」

 霜田監督は説明するが、まさに象徴的だった。

「敵陣でサッカーをやると決め、どんどんボールを前に進め、プレッシングでボールを奪って、それはできました。でも最後が足りず、1回のミスで失点。シーズンで何回もそれをやってしまった」

 率直に言って、未完成のサッカーだろう。J1と社会人のレベルが混在したような波の激しさがあった。

 たとえば山口一真は、能力は高い。すばらしいターンで、カウンターでゴールに迫る瞬間があった。しかし、左へ流すだけのイージーパスは大きくずれた。また米原秀亮は、センスを感じさせる左利きボランチで、戦術眼にも優れる。相手の間に入ってセンターバックからボールを受け、それをダイレクトで戻す。ボールが右に回ったとき、彼はターンでラインを越えていたが、リターンがない。味方はガチャガチャとしたプレーで失い、台無しだった。

 ひとつのいいプレーが、連続的につながらない。判断にズレが出る。それが最後の精度も狂わせ、失点に至るアマチュアレベルのミスを起こしていた。その不安定さが、1試合は良くても、次の試合で良くなくなる不安定さにもつながった。

「早い段階で手応えはあって、開幕から6試合負けなし。キャンプからやってきた効果が出てきました」

 霜田監督は言ったが、そこで眉をひそめた。

「でも、それが続かない。(相手に)何もやらせない試合で勝ったあと、次も同じメンバーなのに、できなくなっちゃう。仕組みが定着できていないな、と勉強になりました。(これまでのサッカーに)戻ってしまう試行錯誤で......」

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