リーグ1位のアシスト数・樋口雄太は無心でボールを蹴っている「練習してない時のほうが逆にいい」 (4ページ目)

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • TOBI●撮影 photo by TOBI

【尊敬するならば、その人を越えるくらいにならないと...】

 日ごろから考えに考えているため、セットプレーだけでなく、プレーについても同じことが言えるのではないか。そう思い、樋口に再び問いかけた。すると、ハッとしたように樋口は言った。

「たしかに試合中も無心の時のほうが、むしろ判断も、反応も、アイデアも表現できていますね。話をしていて自分の考えが整理されましたけど、自分に必要なのは、セットプレーのキックと同じで、考えをそぎ落としていく作業かもしれない。無心でプレーできているときほど、自分が攻守に顔を出せる回数や機会は多いので」

 目の前が開けたように、明るい表情を見せる樋口は今、自分自身を追い込み、自分を越えようとしている。

 そしてもうひとつ、越えようとしているものがある。鳥栖時代にずっと背中を追いかけ、鹿島で背番号14をつける理由にもなっている、高橋義希の存在である。

「義希さんには本当にお世話になっていて、ずっとその背中を追いかけていました。言葉で直接、言われたわけではないですけど、義希さんからはどんなに試合で活躍しても、満足していない姿勢を常に感じていました。チームが連勝していると、自分の成長を見落としがちになりますけど、この間も義希さんの背中を思い出して、自分に喝をいれたんですよね」

 今も折を見て、その背中を思い出すほど、尊敬する先輩である。しかし、鹿島で出会った先輩は、樋口にこうアドバイスを送った。2022年の同期加入になる仲間隼斗だった。

「雄太が高橋義希さんに憧れるのはいいけど、背中を追いかけているだけでは、その人を越えることはできないよ。きっと、そこで雄太の成長は止まってしまうと思うけどな」

 仲間は、さらに言った。

「尊敬する人なのであれば、なおさらその人を越えるくらいにならないと。自分が上を目指したいのであれば、ただ憧れているという認識や背中を追いかけているといった感覚をあらためて、自分自身の選手像を作り上げなければならないんじゃない?」

 よくランチをする馴染みの店で2時間以上も話し込んだというが、その時も樋口はハッとさせられたという。

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