清水エスパルス秋葉忠宏監督「自分はクズだとわかっていますから、みんなの力が必要だと」理想の監督像などを語った (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by アフロ

 秋葉は2年間、水戸でコーチを続けたあと、ザスパクサツ群馬で監督になり、その後、年代別の代表でコーチになった。2020年からは水戸で3年間、監督としてチームを指揮した。

――コーチは難しいとよく言われますが、実際、経験されてそれを感じましたか。

「コーチは決定権がないのが最大の難しさですよね。あと、監督の思いを100%、選手に伝えるのが難しいですし、選手に聞かれて即答できないジレンマがあります。イージーな質問ですと、こういう方向でやろうと言えるんですけど、代表レベルになるとグレーゾーンを突いてくる質問がくるんですよ。監督とすり合わせてからじゃないと答えられないんで、タイムラグができるんです。それじゃ意味がないんですよ。選手は困って聞いているのに答えられない。自分は何のために存在しているのか、何してんだって思うことが多々ありました」

――選手はどんなことを聞いてくるんですか。

「代表では試合でのゲームコントロールですね。たとえば残り5分ぐらいだと守備固めに入り、『外で時間稼ぎしろ』ぐらいは言えるんです。でも、まだ後半15分で1-0で勝っている。そこで『ここからのゲーム運びをどうしたらいいんですか?』って聞かれた時、即答できない。僕がそこで監督の意図と反することを言ってしまうとチームがおかしくなってしまう。これが3位決定戦で勝ったほうが世界大会に行けるというシビアな試合ならなおさらですよね。一瞬の判断が勝敗を左右するのに言えない。エスパルスで(のコーチ時代)も即答できないんで監督に聞きにいっていると選手が聞きに来なくなった。面倒くさい。この人どうせわかってないんでしょってなってしまう。選手は僕に答えを求めてきているのに、そこに答えがないというジレンマをずっと抱えてやっていました」

――逆に監督のおもしろさは。

「これはやった人しかわからないと思うんですが、自分の采配が当たったとか、展開がドハマりしたとか、選手がものすごく成長したとか、そういう時はたまらないです(笑)。ひとりで『ほめてくれよ』と言いながら酒を飲んでいます。これがあるからやめられない。あとはつらいことばっかりですよ(苦笑)。勝っても優勝しても喜べるのは、その1日だけじゃないですか。3日も4日も続かない。でも、その一瞬の1日のために監督をやるだけの価値があると思うんです。ストレスは、選手時代の何倍もありますけどね」

――そのストレス解消法は?

「自分は、単純においしいものを食べる、うまい酒を飲む、旅行に行くとかですね。最近は岩盤浴にハマっていて、そういうことをしながらストレスを発散しています。監督は心と体を健康に保つことがすごく大事。そうしないと潰れてしまうんで」

 代表活動やクラブで指導者をすることで、いろんな面が見えてくる。秋葉がおもしろく感じたのは、若い世代はこういう選手がA代表になり、逆にこういう選手が一定のレベルで終わってしまうのが見えたことだった。

――A代表に行く選手、そうじゃない選手の間にはどういう違いがあるのですか。

「簡単に言うと、メンタルの違い。そして、プレーしてミスをした際、内省して自分と向き合うタイプの選手が伸びていきます。岡崎(慎司)や長谷部(誠)は、技術とか、特別すごいわけじゃなかったけど、活躍したのは強いメンタルを持って、常に矢印を自分に向けていたから。リオ五輪の時の(遠藤)航とか鎌田(大地)もそうだった。逆に人のせいにしたり、何かのせいにして逃げる選手はそのレベルで終わってしまう。そういう人を見る目は、長年、若い世代を見ている人ほど肥えていますね。ブラジルでU-17W杯をやった時、でかいセンターバックがいたんですが、スピードが遅かったんで『こいつはダメでしょう』と思ったんです。でも、ブラジル代表のスタッフは、『こいつは必ず伸びてくる』と言うんです。それがダビド・ルイスでした。経験値として選手の先を読める指導者はすごいと思うし、自分もそうなりたいですね」

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