「街から高校生がいなくなる」少子化の影響を受ける地方都市 地元の高校サッカーチームが取り組む対策とは (3ページ目)

  • 森田将義●取材・文 text by Morita Masayoshi
  • photo by Morita Masayoshi

【サッカー環境を整えて高校生が地域に残るように】

 民間が主体となり、サッカーを通して公立高校を盛り上げようとする動きも出ている。

 長野県白馬村は北アルプスの麓に位置し、夏は登山、冬はスキー目当てで国内外から多くの観光客が訪れる。村内唯一の高校である白馬高校はスキー部の活動が盛んで、冬季オリンピックで5大会連続入賞を果たしたモーグルの上村愛子などを輩出してきた高校だ。

 スキー人気が高かったバブル期は白馬村への移住者も多く、生徒数は400人いたが、以降は人口減少や少子化が進み、定員割れが長く続いた。再編統合の対象となった結果、2016年からは県外からの受け入れを可能とした国際観光課を新設し、1学年2学級80人の学校として存続が決まった。

 だが、今のまま白馬高校があり続けるとは限らない。隣町の大町市にあった2つの公立高校が2016年に統合したように、生徒数を維持できなければ再び統廃合の議論が出てくる可能性がある。

 村で唯一の高校がなくなると地域に与える影響も大きい。地域輸送を担うのは長野県松本市と新潟県糸魚川市を結ぶJR大糸線だが、乗客数の多くを通学客が占めている。今でも松本駅発の列車は隣町の信濃大町駅止まりが多いが、白馬高校がなくなれば上下線ともに2時間に1本程度の本数がさらに減る可能性がある。

 白馬高校の存続は、地域の人たちの願いだ。

 立ち上がったのは、白馬村で活動するジュニア、ジュニアユースのクラブチーム「アラグランデFC」だった。もともと白馬高校にはサッカー部がないため、高校でもサッカーを続けたいアラグランデの選手は大町市の高校に通うか、長野市の私立高校へと進んで寮生活を送っていた。

 高校でも白馬の地でサッカーが続けられる環境を作れば、白馬高校に進む選手が増えるかもしれない。そう考えたアラグランデの創設者である稲田良太郎氏は高校に新たに部を作るべきか、自らがユースを立ち上げるべきか何人かのサッカー関係者に相談したという。そのひとりが、帝京高校と東海大学の後輩であり、新潟県長岡市の「長岡JYFC」の代表を務めていた西田勝彦氏だった。

長野県白馬村では、新潟の長岡JYFCを育てた西田勝彦氏(右から4番目)の指導が始まった長野県白馬村では、新潟の長岡JYFCを育てた西田勝彦氏(右から4番目)の指導が始まったこの記事に関連する写真を見る 西田氏は帝京長岡高校の総監督を務める谷口哲朗氏の誘いを受けて、2001年に下部組織である長岡JYFCを立ち上げた人物。サッカーがメジャーではなかった長岡市で幼稚園児からサッカー指導を行ない、MF小塚和季(川崎フロンターレ)やMF谷内田哲平(京都サンガF.C.)らを育ててきた。

 稲田氏は当初、相談するだけのつもりでいたが、話を聞いた西田氏は「難しそうだからこそやり甲斐がある。挑戦したい」と白馬村への移住を決意。この春から小学生と中学生の指導に当たっている。

 2人が出した結論は、アラグランデのU-18年代の設立だ。

 白馬高校にサッカー部を新設し、アラグランデのスタッフが外部コーチとして指導に当たったとしても、学校の先生が顧問を務めなければならず、学校に負担がかかる。また、「サッカーをやりたい選手がやれる場所を作りたい」と考えるアラグランデとしてもU-18の設立は理想だった。

 現在は部員数の減少や指導者の不在で、活動が難しくなった近隣にある小中学生年代のチームまで出向いて、アラグランデの選手とともに指導をしている。彼らが地元の高校に進んで、クラブチームで活動してくれるのが理想の形だ。

 現時点ではまだチームとして発足していないが、すでに3人が中学卒業後もアラグランデに残ってくれた。うちひとりは白馬高校に進学し、平日は中学生チームで練習して、週末はアラグランデの社会人チームでプレーしている。

 来年以降、活動が本格化していけば白馬高校へと進む選手も増えてくるだろう。また、寮のある国際観光科を志願する県外の選手も出てくれば、白馬高校は活性化していく。

 子どもの数がさらに減少していく今後は、同じような悩みを抱える高校、地域も増えていく。アラグランデが始める活動は、そうした高校、地域が生き残っていくための大きなヒントになるだろう。

プロフィール

  • 森田将義

    森田将義 (もりた・まさよし)

    1985年、京都府生まれ。10代の頃から、在阪のテレビ局でリサーチとして活動。2011年からフリーライターとしてU-18を主に育成年代のサッカーを取材し、サッカー専門誌、WEB媒体への寄稿を行なう。

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