横浜FC、森保ジャパンスタイルで降格圏脱出 開幕10戦勝ちなしで生まれた「背水の覚悟」とは? (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

【川崎は相手を軽んじていなかったか】

 後半3分、横浜FCは追加点を記録した。右サイドの山下諒也が自陣から何気ないパスを受けると、一瞬でスピードアップ。快足を飛ばして相手ディフェンダーを置き去りにし、そのままシュートを決めた。完全に虚を突いた一撃で、やるべきことに特化した思い切りのよさが出たと言える。

<川崎に勝てばチームの順位が上がるだけでなく、選手の価値も上がる。失うものはないから、全力で勝ちにいこう!>

 そんな四方田監督の号令によって、チーム内で野心が湧き上がった。戦闘意欲が高まり、前半終り、後半立ち上がりという時間帯で集中していた。メンタル面の差で、川崎を叩き潰した。

「相手が引いて守りを固め、カウンターが狙い、というのは十分にわかっていましたが......」

 試合後の川崎の選手たちは口々に言っていたが、どこかで横浜FCを軽んじていなかったか?

 前半、川崎はほとんど敵陣内でプレーし、技術的なうまさは見せつけていた。大島と家長昭博が絡んだプレーなどは出色だった。しかし、怖さは欠けていた。トップの宮代大聖はJ1屈指の技量を持つが、得点に対する執念や駆け引きが乏しく、大久保嘉人や小林悠、レアンドロ・ダミアンというストライカーが持っていた危険な匂いが足りない。

 また、ボールは持っていても、最強時代に見せていた「ショットガンを打ちながら進むような迫力」はなかった。脇坂泰斗、シミッチの出場停止もあったが、パス回しのためのパスが多くなっていた。ひとりで崩せるタイプの選手がいなかったことも大きく、三笘薫のあとを継いだマルシーニョをケガで欠いたのは痛かった。閉ざした門をハンマーで叩くことで、守備全体にズレも生まれるのだが......。横浜FCは、「いつか点が入る」という川崎の甘さにつけ入った。

 その構造は、カタールW杯で、森保一監督率いる日本代表がドイツ代表、スペイン代表という強豪から金星を挙げた戦い方と似ていた。守りを固めてじっと耐えながら、スピードのある選手をウィングバックや前線など要所に配置し、カウンターの一撃を託す。そして格上である相手の一瞬の油断を突く、"弱者の兵法"だ。

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