Jリーグ史上最も残酷な結末「長居の悲劇」セレッソ大阪の優勝は試合終了直前の失点で消えた (2ページ目)

  • 原山裕平●文 text by Harayama Yuhei
  • photo by Getty Images

【西澤明訓が2ゴール。執念の活躍も......】

 2005年12月3日、大阪は快晴だった。澄み切った青空の下、ホームの長居スタジアムには4万3297人の観衆が詰めかけていた。初戴冠への期待と、本当に勝てるのかという不安。その両方が入り混じった異様な雰囲気のなか、C大阪の選手たちは立ち上がりから実に勇敢に戦った。

 なかでも神がかっていたのは西澤明訓だった。森島寛晃とともに長年チームを支えてきたC大阪の象徴は、開始早々の3分に豪快なヘディングシュートを叩き込み、いきなり先制ゴールをもたらしたのだ。

 ところが20分に同点に追いつかれ、その後にゼ・カルロスがPKを失敗したことで流れは徐々にFC東京側に傾きつつあった。しかしその嫌な空気を一掃したのは、またしても西澤だった。後半立ち上がりの48分、巧みなトラップから豪快に右足を振り抜き、勝ち越しゴールをマークしたのである。

 頼れるエースの活躍で再び1点をリードしたC大阪は、その後のFC東京の反撃を、文字通り身体を張って凌ぎ続けた。激しくプレスをかけ続け、球際の争いでも屈しなかった。優勝への執念が選手たちの身体を突き動かしていたように見えた。

 ところが残り10分を切ったあたりから、長いボールを多用するFC東京の攻撃に対し、次第に受け身になる時間が増えていく。優勝へのプレッシャーも圧し掛かっていたのだろう。C大阪の選手たちの動きが徐々に重くなっていたように感じられた。

 それでも何とか耐え凌ぎ時計の針を進め、あと少し、ほんのわずかな時間を守り抜けば栄冠を手にすることができる。ところがサッカーの神様は、どこまでも残酷だった。アディショナルタイムに入る直前の89分、FC東京がCKのチャンスを得ると、クリアボールに反応したのは今野泰幸だった。左足から放たれた低弾道のシュートは密集地帯を潜り抜け、無情にもC大阪ゴールに突き刺さった――。

 刹那、銃弾に打たれたかのようにバタバタとピッチに倒れ込むC大阪の選手たち。柳本啓成は頭を抱え、前田は呆然と一点を見つめ、古橋は今にも泣きだしそうな表情で何かを叫んでいた。そして西澤は拳をピッチに叩きつけ、咆哮した。

 ほとんど掴みかけていた栄光が、手のひらから零れ落ちていった。時間はわずかに残されていたが、もう1点を奪いに行く気力はすでに残されていなかった。ほどなく鳴り響いたタイムアップの笛。ピンクのユニホームは力なく立ち尽くし、長居スタジアムにはただただ、悲しみだけに包み込まれた。

 負けたわけではない。C大阪は19節から一度も敗れることなく、シーズンを完走した。しかし、勝つこともできなかった。リードしながら終盤に追いつかれる展開は、直近2試合と同じだった。三度、同じ過ちを繰り返したC大阪はライバルのG大阪に優勝を譲り、最終的には5位でシーズンを終えている。

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