FC町田ゼルビアが6連勝と快進撃 黒田剛監督の青森山田流堅守スタイルはJ2でも猛威を振るう (3ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko
  • 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato

【黒田剛監督の見事なマネージメント】

 堅守をベースに7戦無敗の戦いぶりは見事のひと言に尽きる。しかし、もっとも評価されるべきは、結果以上に黒田監督のマネージメントの部分だと感じている。

 今季、19人の新加入選手を迎え、そのうち先発とベンチメンバーには約12人が名を連ねている。それだけのメンバーの入れ替わりがありながら、短期間でチームをまとめ上げ、開幕戦からチームを見事に機能させている。

 昨季から所属するポープ・ウィリアムは「当たり前のことを徹底するのを忘れない、そのことを徹底する人」と表現する。

「守備もチームの決まりごと、優先順位は明確で、その上で『相手をへそで見る』と言って相手に対してしっかり正対すること。最後のところでしっかり体を投げ出すこと。そういうのを徹底します。だからクロスのボールはあまり飛んでこないし、飛んできたとしてもしっかりと跳ね返せているので、監督の言うことが身になってチームの強みになっていると思います」

 また、在籍7年目の奥山も黒田監督の徹底ぶりに驚いたと話す。

「意識するべきことはしつこくというか、こっちが『もうわかってる』というくらいまで要求してきます。だからこそ勝っている時でも緩むことなく、大事にしていることをぼやけさせず、突き詰めてくれます。そこは高体連でやってきた監督らしい部分で、それがいい形で機能していると思います」

"高体連の監督らしい"というのは、名古屋グランパスのユース出身である奥山ならではの表現だろう。ただ、高体連らしいからといって決してトップダウンの指導ではない。

「トップダウンではなく、みんなで作り上げていくという指導は今のチームの非常にいい空気につながっていると思います。お互いにいいコミュニケーションを取りながら選手の意見も聞いてくれて、その意見をスタッフ間で揉んでくれて翌日には答えが返ってくる。そういういい循環ができています」(奥山)

 そこは高校とプロの違いはあれど、黒田監督の指導歴の厚みによる懐の深さ、あるいはプロの現場での試行錯誤もあるのかもしれない。その点で言うと、ポープは言葉選びのうまさに感銘を受けたという。

「たとえば基礎の部分で、シュートブロックで体を投げ出していけるかは、『最後は性格だぞ』と人間の本質的なところを見て言葉にしてくれます。理解しやすいし、プロになって改めてそういったベースの部分をここまで追求され、見直されるのは初めてで新鮮です。学びが多いですね」

 相手にわかりやすいワードを選び、自然と納得させる言葉とは育成年代の指導の本質だろう。6連勝を達成した試合後の会見の冒頭で、黒田監督はこう切り出した。

「無敗で、失点も1しかない状況のなかだと、どこかに緩みが出たり、おろそかになったり、いろいろなものを省略したり。それがチームであり、人間の思考というものです。そこをもう一度、最初に戻そうと。キャンプから積み上げてきた守備の部分に着目してやっていくと。『それから積み上げていかないと何の意味もない』と、ロッカールームで話をしました」

 奥山やポープが話す徹底ぶりはこの言葉からも色濃く伺える。まだ始まったばかりの黒田監督率いる新生・町田は、その徹底ぶりによってよりソリッドなチームになるだろう。この6連勝も気を緩ませるどころか、さらに引き締めるためのスパイスになる。

 第1クールは目標を上回る最高のスタートがきれた。第2クールでもこの快進撃は続くのか。今のところ、町田に隙はない。

プロフィール

  • 篠 幸彦

    篠 幸彦 (しの・ゆきひこ)

    1984年、東京都生まれ。編集プロダクションを経て、実用系出版社に勤務。技術論や対談集、サッカービジネスといった多彩なスポーツ系の書籍編集を担当。2011年よりフリーランスとなり、サッカー専門誌、WEB媒体への寄稿や多数の単行本の構成を担当。著書には『長友佑都の折れないこころ』(ぱる出版)、『100問の"実戦ドリル"でサッカーiQが高まる』『高校サッカーは頭脳が9割』『弱小校のチカラを引き出す』(東邦出版)がある。

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