横浜FCのGKブローダーセンが語るドイツサッカー。オリバー・カーンへの憧れと故郷の特別なクラブ、ザンクトパウリのこと (3ページ目)

  • 井川洋一●取材・文 text by Igawa Yoichi
  • photo by Getty Images

【モダンフットボールの好ましくない流れに抗っている】

 そんな自由と良識を持つ人々はサポートするクラブにも、自分たちのアイデンティティーを問い続ける。

「彼らはクラブに対して、常に適切なバランスを要求する。もちろんスポーツ面の成功を望んでいるけれど、そのために商業的になりすぎることは絶対に許さない。たとえば、今のプレミアリーグや他の西欧のリーグには、アラブやアメリカからの巨大資本を喜んで受け入れて、そのおかげで強くなっているクラブがいくつもある。

 そういうことは、サンクトパウリでは決して起こり得ない。そんな動きがあったら、サポーターが強硬に反対し、どれほどの大金だろうと受け入れない。彼らも勝ちたいのはもちろんだが、自分たちのアイデンティティーや在り方を示す必要があると考えているんだ」

 この稿の書き手もそんな考えには同意するところだが、そうした尖った在り方を維持するのはラクではないだろう。

「多くの場合、それは多数派の意見とは異なるものだから、そうした人々にとっては、ザンクトパウリは厄介な存在だ。だから相手のサポーター、特にメジャーなチームのファンとは衝突することがあるね。でもそれはつまり、ザンクトパウリとそのサポーターは、モダンフットボールの好ましくない流れに抗っている、と言えると思うな」

 個人で考えて行動する人々の多い環境で育ったブローダーセンは、休日には読書をして過ごすことも多いという。快活な雰囲気のなかに、内省的な面も垣間見える興味深いGKだ。

後編「日本に来て、プレーと考え方が変わった」>>

スベンド ブローダーセン 
Svend Brodersen/1997年3月22日生まれ。ドイツ・ハンブルク出身。横浜FC所属のGK。ザンクトパウリのアカデミーで育ち、2014年にザンクトパウリⅡに昇格。ドイツ4部で7シーズンプレーし、その間、トップチームでも6試合出場。U-20ドイツ代表として、2017年のU-20ワールドカップに出場。また2021年には東京オリンピックを戦うドイツ代表のメンバーにも選ばれている。2021年7月に横浜FCへ移籍。すぐにレギュラーを獲得し、以降チームのゴールを守り続けている。

プロフィール

  • 井川洋一

    井川洋一 (いがわ・よういち)

    スポーツライター、編集者、翻訳者、コーディネーター。学生時代にニューヨークで写真を学び、現地の情報誌でキャリアを歩み始める。帰国後、『サッカーダイジェスト』で記者兼編集者を務める間に英『PA Sport』通信から誘われ、香港へ転職。『UEFA.com日本語版』の編集責任者を7年間務めた。欧州や南米、アフリカなど世界中に幅広いネットワークを持ち、現在は様々なメディアに寄稿する。1978年、福岡県生まれ。

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