柏レイソルの象徴・大谷秀和が語る現役時代とこれから。「『ひと筋20年』は自分だけで十分」 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Etsuo Hara/Getty Images

【自分のことでは泣かない】

 舵を握るボランチの面目躍如だが、それは現役最後の試合でも変わらなかった。

 2022年J1最終節、ホームでの湘南ベルマーレ戦。後半29分に交代出場すると、リードされた状況で徐々に戦況を有利に導く。何気なくつけたパスやポジショニングで味方を動かし、あるいは必然でセカンドボールを拾うと、その流れで味方の決定機も生み出した。改めて、存在感を見せつけている。

 もし足首にステロイド注射を打っての出場ではなかったら、今もJリーグ有数のMFだろう。シーズン開幕前には、アンドレス・イニエスタのようなトップ下での起用で、大谷を負担の少ない状況でプレーさせる案もあった。しかし、足首の軟骨が擦り切れて失われ、ネズミと言われる骨片が蠢き、骨は変形し、限界にきていた。

「現役最後の試合を凡ミスで終われないって、変なプレッシャーはありました(苦笑)。最後のイメージに残ってしまうし、気持ちよく引退セレモニーに臨めない」

 大谷はそう言って笑った。

「きれいに終わりたかったですね。"まだできる"と惜しまれて終わりたかった。自分が考える引き際の美学はあったので。だから、若い選手に経験を伝える、みたいに、チームにとどまることもできなかった。それなら選手じゃなくてもできる。やっぱり選手はプレーできるかどうか。だから1年契約でやってきたし、複数年契約だったとしても、今回の決断を下していたと思います」

 試合後の引退スピーチ、大谷は周りの人たちに感謝を伝え、整理した気持ちを届けた。終始、高ぶらず、かといって冷静すぎず、穏やかな表情だった。しかし元チームメイトで今年10月に急逝した工藤壮人について話した時だけ、目を赤く潤ませた。自分のことでは泣かない。「キャプテン」の本性だった。

 大谷はJリーグのタイトルを取り尽くした。チームを強くし、勝たせるボランチだった。どれだけのチームメイトが、「レイソルは、タニ君がいないと成り立たない」と言って敬意を表しているか。その点、不世出の選手だ。

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