「キャプテントーレス」はいかにして残留争いの重圧をはねのけたか (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki photo by Masashi Hara/Getty Images

 そういう言葉を引き出すことができた。スターの度量なのだろう。こちらの意図を汲み取ると、自分とチームの置かれた状況を丁寧に的確に説明した。最後に筆者が礼を言うと、彼も日本語で「どうもありがとう」とそっと微笑んだ。
 
 あらためて、降格争いに巻き込まれたシーズンを、トーレスはどう過ごしたのか?

「寡黙だが、集中力が伝わってくる」
「とにかく真面目で、ジムトレーニングを欠かさない。上半身バキバキ」
「リフティングはヘタだけど、ボールはぴたりと止まる」

 今年7月に入団して早々、サガン鳥栖のチームメイトたちはトーレスの印象をそれぞれ語っている。「フェル」。親しみを込め、そう呼ぶことが多くなった。簡単な英語でのやりとりで、選手同士、話をする機会も増えた。

「(フアン・)エスナイデル(現ジェフ千葉監督)は昔、アトレティコにいてね。(1996-97シーズン)チャンピオンズリーグの準々決勝、アヤックス戦で決めたら勝ち上がっていた(可能性の高い)PKを、GKに止められてしまった。自分はアトレティコのジュニアにいたんだ。当時はすごく叩かれていたよ」

 練習後、トーレスはそんな世間話をするようになった。鳥栖という穏やかな町の日常に溶け込んだ。チームも勝ち点を稼ぎ、徐々に浮上。8月のガンバ大阪戦では、初ゴールも記録した。

 しかし、9月に入ると1勝2分2敗と黒星が先行。勢いに乗るかと思われたトーレスも、調子は上がっていない。マッシモ・フィッカデンティ監督は守ることへの執着が強く、攻撃構築に失敗していた。トーレスも下がって守備をせざるを得ず、ゴールから遠ざかって、悪循環に陥った。パスの出し手が満足に見つからない状況で、トーレス自身がサイドに流れ、中盤に落ち、出し手にならざるを得なかったが、ゴールは決まらない。

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